Xデーまであと10日……俺が死ぬ前に打つ機種(2018年版)

シリーズ名
町民プールで鮪釣り (毎週火曜日更新)
話数
第117回
著者
ラッシー

※作中の出来事は全てフィクションです。現実との混同しないようご注意ください。


【前回のあらすじ】
20XX年某日、日本政府が緊急会見を開いた。内容は「あと10日ほどで中性子星(パルサー)が地球にぶつかり、地球が滅亡する」というもの。中性子星が直撃すれば地球は粉々。もちろん超大型宇宙船の建造も間に合わない。

この絶対的窮地に追い込まれたとき、パチスロ打ちとしてどう生きるべきか。人生最後の長期休暇がはじまった——!

ここからは極力リアルに残り10日の人生を想像していきます。


残り10日(発表当日)

政府の緊急会見を見たのち、ホールに着いたのは15時過ぎ。

会見の内容は理解したつもりだが、まだ現実として受け止められず、いつも通り良さげな「ゲッターマウス」になんとなく座ってしまう。22時をすぎても必死に凱旋やプレミアムビンゴをブン回す猛者たちを目の当たりにし、ことの重大さを改めて実感。なお、収支は-9Kとつまらない結果になった…。

帰宅すると小学校の連絡網が回ってきており、しばらく臨時休校するとの内容だった。


残り9日(発表翌日)

前夜の連絡網を受け、家族で「ネズミックランド」へ。まだ治安が安定しているし、いよいよXデーが近くなれば、さすがのネズミックランドも閉園するかもしれない。その前にしっかり思い出を作っておこうというわけだ。前日になんとなく座った「ゲッターマウス」は、このネズミックランド行きに繋がっていたのかもしれない。

それにしても、テーマパークの顔とも言えるキャラクター「ネッキー」はさすがだ。Xデーへの不安を忘れさせるほど圧巻のパフォーマンスである。これぞプロの仕事! そしてこの日はTNR(東京ネズミックリゾート)近くのホテルに宿泊した。


残り8日(発表から2日後)

家族で朝から「ネズミックオーシャン」へ。みな同じ考えなのだろう。ゴールデンウィークさながらの混み具合だ。

なんとなくキャスト(従業員)が少ない気もするが、現場に出ているキャストはいつも通りの笑顔を見せている。ゲスト(客)の不安を少しでも和らげようとしているのだろう。

おそらく生涯最後になるであろうシューマイサンドは、全く味がしなかった。どうやら俺は、あのキャストたちほど強くないらしい。園内のレストランで花火を観ながら酒を飲み、スヤスヤ眠る娘を抱きかかえながら帰宅した。


残り7日(発表から3日後)

妻子は近所に住む義理の妹夫婦の元へ。一方の俺は「最終最後のその日まで休まず営業」と謳う近所のH店へ向かった。

商店街はシャッター通りとなりつつあるが、H店は活気が漲っていた。朝の抽選人数は350人で、俺の入場番号は341番。パチスロの総台数は260台だから、諦めて帰ろうかとも思ったが、空いていた「パチスロ トータル・イクリプス」に着席。どんな展開になろうとも22時すぎまで打ち続けると誓い、結果、-86Kの大敗に終わる。

帰り道で「はよ滅べや!!」と呟きながら小石を蹴った。


残り6日(発表から4日後)

妻子は近所のママ友グループとのパーティーへ出掛けたので、前日と同様に、朝イチからH店へ。街にはゴミが溢れ、所々に車が乗り捨ててある。徐々に治安が悪化しているのだろう。

この日の抽選人数は前日を上回る380人だったが、俺が引いたのは23番! みんな憧れのバジ絆にもラクに座れる「良番」である。しかし、選んだのは「エヴァンゲリヲン・勝利への願い」。やはりこの台にもしっかりお別れを言わねばならない。

結果、紛うことなき据え置き挙動で-72K。H店の店長は同志だと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。軽めの〇意を抱きつつ帰宅した。


残り5日(発表から5日後)

起床直後に「もうH店の養分のまま死ぬのはゴメンだ」という結論に至り、私的イベント「連れスロ The LAST」の開催を決意。

こんな非常時でも難なく繋がるLINEで業界仲間に連絡し、翌日、こだわりのレア台ラインナップに定評があるN店に集まることにした。声を掛けた人数は54名にも上ったが、既読スルーが28件、未読が12件、レスは14件。結局、参加者は俺を含めたったの3人だった。

——泣いた。


そして家族と昼食をとったのち、まだ辛うじて営業している近所のL店へ。そこで「パチスロ蒼穹のファフナー」と「緑ドンVIVA(初代)」を打ち散らかし、この日は-57Kでフィニッシュ。もはや苛立ちや悔恨といった感情はなく、限りなく無に近い精神状態となった。


残り4日(発表から6日後)

家族会議の末、Xデーとその前日は我々夫婦の実家を訪ねることに。つまりパチスロを打てるのは、この日が最後だ。午前9時にN店へ行くと、すでに大和さんとスロカイザー(素顔)が待っていた。

鉄道はすでに機能しておらず、大和さんは俺と同じく自転車で現地へ。2人とも朝イチなのに汗だくだった。ザーさん(素顔)はお母さんに車で送ってもらったらしい。乗り物酔いしやすい体質だから、顔はブルーハワイのごとく青ざめていた。ムチャしやがって。

いざ、開店。俺は初代青ドンへ。ザーさん(素顔)はフラつきながらもツイン2を確保。大和さんは…なぜか「ウイングマン」に座っている。


「僕、これ初打ちなんですよ〜」


じゃねーよ! いいのか? あと数日しかないのに!!

そして15時過ぎに実戦終了。REG後700Gという期待値プラス域での撤退は少々心残りだが、これからお世話になった先輩・知人・友人に別れを告げて回らねばならない。大和さんと最後の抱擁を済ませ振り向くと、ザーさん(素顔)も両手を広げて立っていた。

それを華麗にスルーし、ロードバイクに跨る俺。そこから日付が変わるころまで神奈川と都内を駆け回り、大事な人たちに別れを告げて回った。


残り3日(発表から7日後)

自宅から俺の実家までは車で5時間ほどの距離だが、それはあくまで平常時の所要時間だ。すでに寸断されている道路も多く、治安が悪化し通れない道路もある。高速道路も至る所で事故が発生しているようだ。

車にありったけの食糧を積み、山形へと向かう。渋滞に巻き込まれたり、高速から降りて迂回したりして、12時間かけて実家に到着。母が作った山形料理を楽しみ、その後は山奥の温泉へ。いつも人気がない温泉なのに、Xデーが迫っているためか賑わっていた。

実家に戻ってからは娘と天の川を見て、その後、親父と晩酌。明日は石川県までドライブなので、早めに寝ることに。


残り2日(発表から8日後)

午前8時起床。仏壇に手を合わせたのち、18年を過ごした自分の部屋へ。長年使っていたベッドに横になってみた。もう2度とこの部屋に戻ってくることはないのだ。壁に貼られたキャメロン・ディアスのポスターに別れを告げ部屋を出ることに。

食糧とガソリンを車に積み、両親に最後の挨拶を済まして石川へ向かった。もう鉄道は機能していない。平常時の車なら6時間半の道のりだが、もうカーナビのGPSも役に立たない。何故かと言うと、パルサー(中性子星)は電波を撒き散らす天体なので、その影響で大規模な電波障害が生じているのだ。

所々迂回しながら新潟→富山と日本海沿いを走り、午後10時、やっと家内の実家へ。いつもなら金沢に着くと寿司屋へ直行するのだが、数日前から港も閉まっているとのこと。乾物を肴に酒を飲み就寝。


残り1日(発表から9日後)

中性子星はまだ肉眼では見えないが、地上の観測所の望遠鏡からは見えるらしい。テレビはNHKだけが放送を続けている状況だが、やはり電波が乱れているためか激しいノイズが入っている。

妻子とお義母さんは遊園地へ向かったが、やはりもう営業しておらず、山奥にある大きな神社までドライブすることに。

そして、神社につくと、まるで初詣のような大混雑。どうやらみんなが地球の無事を祈りに来たようだ。我が家族も同様に祈り、家内の実家へ戻ることにした。


家内の実家に着くころにはすっかり日が暮れていたが、街中の大きなホールにはいつも通り明かりが灯っていた。電光掲示板には「深夜1時まで延長営業」の文字。書き入れ時の金沢周辺のホールは、23時までの延長営業が当たり前なのだ。

チラリと家内を見ると、溜め息を漏らし小さく頷いてくれた。お義母さんに運転を代わってもらい、1人で車を降りた。ホールに入ってみると、中は想像以上に荒れていた。

コインサンドと精算機は、1つ残らず壊されている。パチンコのほとんどはガラスが割られているが、海のシマだけは高齢者で賑わっている。玉の循環システムは動いているようだ。スロットフロアもAT機の類は壊されているが、ノーマルタイプは6割ほど残っている。

バーサスを打っているおじさんに尋ねると、もうホールは放棄されているらしい。その辺から適当にコインを集めて打てばいいとのこと。さて、これが本当に生涯最後のパチスロになるだろう。最後に相応しいのは…コレだ!!



(C)UNIVERSAL ENTERTAINMENT


ハナビ。

パチスロを打ち始めたころは4号機の花火にお世話になったものだ。俺のパチスロ人生は花火で始まり、ハナビで終える。コレしかないっしょ! しかしながら、今夜は家族と過ごせる最後の夜だ。1BIGでいい。1BIG引いたら帰ろう。


——しかし、打てども打てどもBIGが当たらない。着席から3連続でREGである! ふふ、俺らしい最後だな。なにを打ってもREGばかりだった。REGばかりのパチスロ人生だ。でも後悔はない。立ち回りも目押しも極めはしなかったが、下手なりに楽しませてもらったよ。

さて、そろそろ帰ろう。娘とお風呂に入って、ビールとジュースで乾杯して…ん!? リーチ目じゃん。


(C)UNIVERSAL ENTERTAINMENT


あっ…



(C)UNIVERSAL ENTERTAINMENT


う…うぅ…ドンちゃん。

お世話になりましたぁぁぁ!!!


RTを取り切り、コインを元の場所に戻して実戦終了。バーサスおじさんは、このまま中性子星が直撃するときまで打ち続けるそうな。クッ…漢だぜ!


家内の実家に戻り、お風呂に入ってから最後の晩餐。といっても、もう海産物は冷凍モノしかなかったが。


Xデー当日

いつも通り軽めに朝食を済ませ、仏壇に手を合わせた。テレビはもう映らないが、ウワサでは昼過ぎに衝突が起こるとのこと。まさか宇宙のダイナミックな天体ショーを、こんな形で目にすることになろうとは。

もはやどこに逃げても意味はないが、娘が怖がらないように屋内で最期を迎えることに。娘が大好きな公園。そこに大きなお城型の遊具がある。バッグにおにぎりとラジオを詰め、家族全員で車に乗った。

中性子星は高速でやってくるらしい。見えたと思ったら、もうそれが最後だ。そろそろ衝突予定時刻のハズ。娘を抱きかかえ、家族にも最後の挨拶を済ませた。

さあ、さよなら現世。けっして裕福ではなかったが、総合的に見れば楽しい人生だった。娘の未来を用意してあげられなかったことだけが、唯一の心残り。まあ、これも宇宙に棲む生物の宿命なのだろう。…あれ!? なんか衝突遅くない?


その後、何時間待ってみても衝突の瞬間が訪れない! NASAが計算を間違えたのだろうか。しかしラジオの電波が届いてないことから、中性子星が近くまで飛来していたのは間違いないだろう。娘はとっくに飽き、遊具で遊んだり、公園内を駆け回っている。

このまま公園に立ち尽くしているのもバカらしいので、家内の実家へ戻ることに。


Xデー翌日

起床後スグに空を見上げてみたが、それらしいモノはなに1つ見えない。いつも通り太陽がポツリとそこにあるだけだ。NHKの放送が復旧したのは午後2時過ぎのことである。


アナウンサー「これより安藤首相より、日本国民のみなさんに重大な発表があるとのことです。今、ライブ中継が繋がっております。あ…今、会見が始まります!」

首相「えー、国民のみなさまに申し上げます。我が星を揺るがせていた危機は回避されました。繰り返します、重大な危機は回避されました。この10日間で経済やインフラが麻痺し、治安も悪化しました。これから国民のみなさまが安心して元の生活に戻れるよう、全力で復興していきます」

マスコミA「もう中性子星がぶつかることはないのでしょうか?」

首相「アメリカ合衆国政府とNASAの見解によれば、もうぶつからないとのことです」

マスコミB「NASAの計算が間違っていたとすれば、一連の混乱の責任をNASAに取ってもらうことになると思うのですが?」

首相「NASAの計算は間違っていなかったようです。詳細については…」

マスコミC「すでに野党からは一連の責任を総理に取ってもらおうとの声が相次いでますが?」

首相「誠心誠意、復興に努めて参ります」

マスコミD「なぜ衝突を避けられたのでしょう?」

首相「詳しくは調査中ですが…2日ほど前、はくちょう座方向から高エネルギーのなにかが飛来し、中性子星に直撃した模様です。NASAからは、それで軌道がズレたのではないかとの説明を受けました」


はくちょう座方向になにがあるのか。興味がある人は検索してみてください。宇宙は面白いですよ。


かくして危機は去り、世界中で復興が始まりましたとさ。

めでたしめでたし。


【俺が死ぬ前に打つ機種(2018年版)】
ゲッターマウス(5号機)
パチスロ トータル・イクリプス
エヴァンゲリヲン・勝利への願い
パチスロ 蒼穹のファフナー
緑ドンVIVA!情熱南米編(初代)
青ドン(初代)
ハナビ(5号機)

うむ、納得の名機ばかり!! アナタはどんな機種を思い浮かべましたか?