信じるか信じないかはアナタ次第

シリーズ名
試みの高低線 —嵐のハードボイルド人生相談— (毎週水曜日更新)
話数
第28回
著者
担当編集メガネ(以下、メ) 「今週は、粗方先生が1つのご質問に対し悪ノリを始めてしまった関係で、いつもよりかなり長めの内容となっております(苦笑)。お時間にもお心にも余裕のある方にだけ読んで頂ければと思います。それでは先生、よろしくどうぞ!」



■PN『ゴーストバスター』さんからのご相談

粗方先生は心霊現象を体験したことがありますか?


■粗方先生のお答え

「世にも奇妙なあなたの知らない世界」を、俺も何度か垣間見たことがある。

直近のハッキリした思い出だと、24歳くらいの頃だな。

当時俺は、六畳一間の先輩の家に一緒に住まわせて頂いていたのだが、ある日夜中に1人で寝ていた時に、不意に両肩を物凄い力で掴まれ、その痛みでうなり声を上げながら目が覚めた。

——きっと先輩が仕事から帰ってきて、マットレスの真ん中でいびきをかいている俺に思わず腹を立て、「邪魔だ! 起きろっ!」と物凄い力で両肩を掴んでいるのだろう。…もしかしたら、仕事帰りにお酒を嗜んで、酔っぱらっているのかもしれないな。

夢うつつの意識の中、直面した事態をそう解釈した俺は、先輩に詫びを入れ、万力のような両手を離してもらおう…と、ゆっくりと目を開けた。

…すると目の前には、見たこともない黒髪の髪の長い女のシルエットが在った。

暗がりなので顔は見えないが、頭の引き出しをひっくり返したところで、どこにもそのシルエットに関する心当たりはない。

——え?

おどろき戸惑った俺は、急いでギュッと目を閉じ視界を遮断した。

兎にも角にも、全くもってこの事態が飲み込めない。

…もしかしたら、先輩の彼女が遊びにきて、見たこともない男が寝ているのを目の当たりにし、不審者だと勘違いして必死で取り押さえているのだろうか?

…いやいや、もしそう考えたのなら、まずは先輩か警察に連絡するハズだ。

それに、部屋に入るときに電気を点けていないことにも、どうにも合点がいかない。

それに、この万力を彷彿とさせる握力はどうだ。

俺の肩は、誇張ではなくつぶれそうになっていて、激痛という危険信号を絶え間なく脳髄に送り続けている。

霊長類最強と謳われる吉田〇保里でもなければ、女性でこれほどの握力は発揮することはできないだろう。

…まさか?

俺は本人確認をするために、いま一度ゆっくりと、閉ざしていた瞼を開いた。

どう見ても吉〇沙保里ではない。

そして、どちからというともっと細身に見える。

いずれにせよ、こんなゴリラ並みの腕力を発揮できるような女性には見えなかった。

そして何より、これほどの力で俺の肩を掴み続けているにも関わらず、この女性からは両腕の筋肉の強張りも、それによる震えも、そして息遣いさえも何一つ感じられなかった。

俺は不意に、得も言えぬ恐怖に駆られて、急いで再び瞼を閉じた。

…俺はいま、完全に異常事態に見舞われている。

夜中に自宅で(厳密に言うと先輩の家だが)、見ず知らずの女性の攻撃を受け、しかも攻撃を受け続けている肩はもう限界で、いまにも肉は爆ぜ、骨は砕けそうだ。

そしてその恐怖と痛みで俺はパニックに陥り、思わず叫び声を上げた。

…いや、厳密に言うと上げようとした。

しかしそれは叶わなかった。

声が出ないのである。

絶叫を上げて相手をひるませると同時に、自分の戦意を鼓舞しようと目論んだ俺の叫び声は、「かひゅっ、かひゅっ」という、か細すぎる小間切れの吐息となって、弱々しく喉奥から口蓋を通り抜けただけだった。

…これは一体どういうことだ?

俺はさらにパニックに陥りそうになったが、寸でなんとか踏みとどまり、ならば…と、今度は馬乗りになっている(と感じた)相手を振り払うべく、勢いよく体を返そうと試みた。

しかし、ここで自分が声を出せないだけではなく、両手・両足を動かすことすら出来なくなっていることに、初めて気が付いた。

——もしかしてこれが金縛りというやつなのか?

ようやく自分が遭遇している事態を完全に把握できた瞬間は、恐怖が俺の心を完全に支配した瞬間でもあった。

「ナンデ俺二?」

「ドウシテコンナコトヲスル?」

「オ前ハ一体誰ナンダッ?」

「痛イ痛イ痛イイタイイタイイタイイタイイイイイイイッ!」

様々な負の感情が、脳内を超高速で、所狭しと駆け巡る。

そしていつしかその感情は、相手に対する圧倒的な怒りへと変換されていった。

「…メロ…」

「ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ…」

すると…

「やめろって言ってんだろっ!!!!」

ようやく口から吐き出された怒号と共に、俺はマットレスの上で跳ね起きた。

声が出るようになると同時に、身体の自由も戻ったのだ。

そしてその勢いでぐるりと周囲を見回したが、さっきまでそこに在ったハズの女の存在は、すっかりと跡形もなく消え失せていた。

残されていたのは、まるで和太鼓の演奏のように激しく高鳴る動悸と、胸がふいごのように動く荒い呼吸、そしていつの間にか涙でぐしゃぐしゃになった惨めな俺の顔のみだった。

真っ暗な部屋はシーンと静まり返っていて、さっきまでの出来事にまるで現実感はない。

唯一現実感があるとすれば、さっきまで掴まれていた肩に残っている痺れのような痛みだが、もしかしたら寝ている間に筋肉が攣って、それが原因でこれまで見たこともない悪夢を見たのかもしれない。

…年甲斐もなく、怖い夢を見て泣きじゃくっていたということか、俺は。

冷静になり、自嘲気味の笑みを浮かべた俺は、タオルケットに顔を埋めるようにして、再び眠りについた。

今度こそ先輩に怒られないように、マットレスの端っこで。


——翌日。

仕事から帰宅した先輩に、俺は昨晩見た夢の話を、冗談めいて伝えた。

自分の恥を自虐ネタへと昇華して、疲れて帰ってきた先輩にせめて笑って頂こう…という、俺なりの遠慮深謀である。

で、あるので…

粗方「いや〜、ぶっちゃけ怖くておしっこチビりそうになりましたよぉ」

という"盛り"も欠かさない。

まあ、実際に怖くて本気でチビりそうになってはいたのだが…それはもう過去の話だし、この際、真偽はどっちでもいいだろう。

先輩「ったく、亮ちゃんは本当にバカだね〜。いい年してそんなことくらいでチビってんじゃないよ(笑)」

嵐「いやいや、先輩! チビってはいませんから! チビりそうになった、ってだけですから!」

俺の予想では、こんな談笑が繰り広げられる…ハズだった。

先輩「…え?」

俺の話を聞いた先輩は、予想とは裏腹に、眉間にしわを寄せてひたすら顔を強張らせていた。

…いやいや先輩、大丈夫ですって!

チビってマットレス(共用)を汚したりなんてしてませんって!

いくらなんでもこの年になって、おねしょなんて本当にしませんって!

ちょっとだけパンツが濡れちゃっただけですって!

そうまくし立てるように言い訳を始めた俺だったが、先輩が見たこともないような強面になっていたのは、どうやらそれが理由ではないらしい。

そして先輩は、ついに重い口を開き、その理由を語り始めた。

先輩「実は俺の彼女が…その、いわゆる霊感的なモノがあるらしいんだけど…」

先輩「と言っても、俺は全然信じてなかったんだけどさ」

先輩「その彼女が以前、俺の家に遊びに来た時に、急に玄関前で立ち止まってさ…」


〜以下、先輩の回想〜

彼女「…え? もしかして、この部屋が〇〇くん(先輩)のお家?」

先輩「そうだよ。狭苦しいところで申し訳ないけど…」

彼女「あー、ココはちょっと無理だわ。私、入れない」

先輩「え? なんで? そりゃたしかに見た目は汚いところだけど、中はちゃんと綺麗にしてあるし…」

彼女「そういうことじゃなくて…いるから、ココ。中に、女の人が」

先輩「え? それってどういう…」

彼女「前にも話したじゃん。私、そういうのを感じちゃう人だって。…ああ、もう無理。家の前に立ってるのも辛いもん。ごめん、私帰るね」

先輩「えっ! ちょっ? ちょっと待ってよ!」

〜回想終わり〜


先輩「…ということがあったんだよね」

嵐「ま、マジですか?(ゴクリ)。…で、でもアレじゃないんですか? 急に"その気"がなくなったとかで、それを言い訳にしてその日は帰っちゃった…とかじゃ?」

先輩「それはないんだよね〜。だって、そのあと歌舞伎町のホテルに移動して、普通に2人で泊まったもん」

嵐「マジですか? じゃ、じゃあ彼女さんは、本当にこの家に入るのが嫌だっただけだ…と」

先輩「しかもその子に、『じゃあどんな女が俺ん家にはいるワケ?』って聞いたら…」

嵐「聞いたら?」

先輩「黒髪の髪の長い女って言ってた」

嵐「…マジですか?」

先輩「…マジ」

嵐「………」

先輩「………」

嵐「…引っ越しますか。これを機に、広いところへ。俺も金出しますんで」

先輩「そうだね」

そして俺たちは、逃げ出すようにすぐさま引っ越しを決めた。

ちなみに、その直後に先輩から聞いた話では、以前にもクラブで知り合った女の子を家に泊めようとしたところ、同じような理由で断られたことがあった…とのこと。

その時は、それこそ急に気が変わったんだろう…と気にも留めなかったらしいが、彼女に同じようなことを言われた時から、実はずっと心の中でそのことが引っかかっていたらしい。

これが俺と、当時一緒に住んでいた先輩が経験した「世にも奇妙なあなたの知らない世界」の話だ。

小僧、とりあえず信じるか信じないかは、お前次第だ。



「いや〜、ようもこんな作り話をつらつらと書く気になったもんやね」

「作り話じゃなくて、ガチの経験談ですから! …まあ、信じるか信じないかはアナタ次第ですけど」

「それが言いたいだけやないの?」

「…もしかして、そうやって頑なに信じないのは、メガネさんがこの手の話が苦手だからじゃないですか?」

「苦手やないって。信じてへんだけやから(苦笑)」

「なんか動揺してません? …って、ああっ!!??」

「ええっ? なななななにっ???」

「いや、ちょっと喉に違和感があったんで、少し発声練習をしてみただけです(笑)」

「おどれ、いちびってるとホンマにぶち殺したんどコラァ」

「…こわっ」





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