人の心巧みに操るインチキコンサルタント。誰も被害届を出さなかった理由とは……!?

シリーズ名
現役ホールマネージャーだけど、なんか聞きたいことある? (毎週日曜日更新)
話数
第91回
著者
アタマキタ
常連のお客様を食い物にするインチキコンサルタント…どうにかして早めにこいつを排除しなくてはならない。しかしその実態すら定かではない。

どこかに映っていないか…と、録画された店外の映像を隈なく見ても、それらしき人物がお客様と接している様子は見当たらない。

「さて、どうしたものだろう…」


数日間、スタッフに話をして店の外の監視などの強化に努めたが、不審者を発見したという報告は上がってこない。詐欺師の勘が働き、店の近くには立ち寄らなくなったのだろうか…。常連のお客様に聞いてみようかとも思ったが、こんな話を手あたり次第にお客様に聞く方がおかしい。

それよりも例の美人客と詐欺師の徳さんが組んでいるのではないだろうか…そんなことも考えつつ、美人客の会員カードの使用履歴を見てみるが、いたって普通に勝ち負けを繰り返しているだけで、特別おかしなところは見当たらなかった。出る台なんて分かる訳がないので、当然と言えば当然なのだが…。


釈然としないままだったが、あれからというもの被害の報告もなく、淡々と日々が過ぎ、なんとなくその事件の記憶も薄れていった頃だった。

閉店後に1人のスタッフが事務所に立ち寄り、主任に声をかけた。

「この紙、何ですかね…。台番号が書いてあるんですけど?」

その話し声が聞こえていた俺は、瞬時に「やられた」という感覚を抱き、そのスタッフが持っていた紙を受け取った。紙には見覚えがある赤い文字で台番号が書かれている。これは以前、文句を言いにきた女性が持っていたものと同じやつだ…。

「この紙はどこにあったんだ?」とスタッフに聞くと、「女性トイレの洗面台の上に置いてありました」との返答が。紙があった場所は店内…。

「またやられた…」

こういった被害は、だいたい決まってこうなる。状況が落ち着き、立ち消えになったと思って油断した頃に、また問題が起きるのだ。そんな絶妙なタイミングを突いてくるあたり、まだ見ぬ徳さんという詐欺師のベテラン感を感じずにはいられない。

「これはもう混乱覚悟でもうやるしかないな…」


翌日、俺は販促関係を担当する業者を呼んだ。ちらし、DM、メール、店内ポスターなど、あらゆるところでこの事件についての注意喚起を行なうことにしたのだ。

その時の注意喚起の内容はこうだ。

『最近、当店と契約しているコンサルタントと名乗る男が、店長に依頼されて、常連のお客様に勝って頂くために出る台の台番号が書かれた紙を渡し、対価に金品を要求するという詐欺行為が発生しています。このような事は当店とは一切関係がなく、明らかなる詐欺行為となりますのでご注意ください』


この注意喚起を行なってから数日後、常連のご年配の女性のお客様がスタッフに声をかけてきた。その話をスタッフから聞いた私は、さっそく彼女のもとに向かい詳しい話を聞かせてもらうことにした。

話を聞くと、やはり店外で声をかけられ、バッグからインカムを取り出し、店長と会話をしながら紙に番号を書き出して、その紙を渡してきたという。さらに、その女性は紙を買っただけでなく、驚いたことに大勝ちした日にプラスとなった金額の半分の5万円をこの男にあとからご祝儀でくれてやったと話していた。

俺はそれは詐欺行為だと丁寧に説明し、被害届を出すか聞いたのだが、「そんなのみっともないからやりたくない」とまたも断られてしまった。

しかもこの女性にいたっては、徳さんという男が詐欺師ではないかと薄々感づいていたという。それでもこの女性は徳さんという男は「悪い人ではない」と言い張るのだ。さらに、立ち話で旦那の愚痴を1時間も聞いてくれたこともあり、たとえ私が騙されているとしても「それはそれでいい」と言うのだ。そうまで言われると、こちらも折れざるをえず…。


また別の日には、はがきを貰ったという女性のお客様が話をしてきた。そのお客様も他のお客様と同様の手口ではあったので、それは詐欺行為であるということを説明したのだが、「騙された私が悪いから仕方がない」とそこで話を終えてしまった。

このようにして数人の女性のお客様と話をしたのだが、どのお客様も一様に「もう終わったことだから…」と重い腰を上げず、誰からも被害届が出されることはなかった。


そんなこちらの動向を察知したかどうかは不明だが、それからこの徳さんという男絡みの話はまったくと言っていいほどなくなった。

ターゲットを絞り込み、確実に落としていく詐欺師の手口。さらに被害者からのクレームは、最初の女性ただ1人だけで、あとの人たちは納得すらしてしまっている。

被害に遭ったと分かっても、「みっともない」「私が悪い」という被害者の心理を突いたやり口で常連のお客様を巻き込んだ事件は、最終的に犯人を特定できずに終わりを迎えることとなった…。

もしも最初の女性がカウンターに駆け込んで来なかったら、永遠にこの話は埋もれてしまっていたのかもしれない。そう思うと背筋が凍る思いがした。

金の匂いがするホールには、いろいろな輩が集まってくる。詐欺師だけでなく、ゴト師も、裏業者も、ヤクザもそうだ。そういった外敵からお客様をしっかりと守っていかなければ、店は簡単に食い潰されてしまう。

改めてそう思い知らされた出来事であった。

(おわり)



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