【詐欺師】ある日、外国人の女性客が景品カウンターに来て「店長を出せ」と大騒ぎしたことから話が始まる……

シリーズ名
現役ホールマネージャーだけど、なんか聞きたいことある? (毎週日曜日更新)
話数
第89回
著者
アタマキタ
今回は十数人の常連のお客様が被害に遭った、詐欺師の話をしようと思う。

その詐欺の被害に遭った方からの話を聞くと、それはもう相手の心理を巧みについたやり方で、実際に被害に遭ったと気づいたとしても、なかなか表に出てこない厄介な話なのだが。しかもこの詐欺師は店内には一歩も足を踏み入れることなく、ターゲットから確実に金を巻き上げていたのだ。


それはとある日のこと。外国人の女性客が景品カウンターに来て「店長を出せ」と大騒ぎしたことから話は始まる。

俺はその日、大規模な新台入替に向け、台の配置や戦略について図面と格闘していた。勝負機を大量に導入するにあたり失敗は許されない。勝負機はどの程度まで出せばいいだろうか? 近隣の競合店は対抗してどれくらい出玉を見せてくるだろうか? そんなことを考えながら事務所で頭を悩ませていたのだが、その時すでにホール内では思いもよらない事態が起こっていたのである。


「すみません店長!」

主任が慌てた様子で事務所に入ってきた。その雰囲気からこれはまたホールで何か厄介な出来事が起こったのだろうなぁと察した。大事な新台入替の準備で今は忙しいこともあり、タイミングの悪いことこの上ない。しかしそうも言ってられないので、「何かあったのか?」と、面倒ごとは御免だと言わんばかりの不機嫌な声で主任に問いかけた。

すると主任が状況を話し出した。「景品カウンターに女性のお客様がお見えになっているのですが、用件を尋ねても『店長を出せ』の一点張りで、店長に会う理由を問いかけても何も答えてもらえず…。景品カウンターの前ですので、他のお客様の迷惑にもなりますから店内の別の場所に移動してほしいとお願いすると、今度は景品カウンターの前で泣き出してしまいまして…」。

そう言い終わると、主任はじっと黙って俺の方を見ている。

「おいおいおいおい。ちょっと待て…」

主任の俺に対するその視線…これは『会社に押しかけてまで文句を言いたいような酷いことをその女性に対してしたんだろう?』というような懐疑的な眼じゃないか?

こいつアホなのか…!?

その眼差しにイラっとしたが、ここは我慢して主任に対してその女性をカメラに映すように指示した。そして俺は映し出されたその女性をモニターで確認すると、すぐにその女性が最近ちょくちょく来店されている海を打つお客様だということが分かった。

というのも、店内作業中にフロアを歩いていたときに見かけた、この女性の印象的な赤い派手な髪飾りに見覚えがあり、それがモニター越しにはっきり見えたからだ。当然店内では見かけているので、この女性がお客様だということは分かったのだが、俺はこの女性との面識は全くない…。まぁどうせ思い込みで「遠隔だ!」とか騒ぎ立てられるんだろうと思ったが、その女性に対応すべくホールに向かうことにした。


景品カウンターに着くと、その女性は地べたにうずくまった状態で座り込んでいた。顔は下を向いており、俺が来たことに気づいたそぶりもないので、女性の肩を軽く叩きながら「お客様何かございましたか?」と声をかけた。すると女性はすぐさま顔を上げ、俺をにらみつけながら強い口調でこう言い放った。

「店長が『出る』って教えてくれた台を打ったけど、今日は1回も当たらないじゃない!! もう5万円も負けているのよ。お金を返してちょうだい!!!」

「???」

ん!? 一体この女性は何を言ってるんだ? 俺が教えた台って、何のことだ?

そもそも俺は、この女性と今ここで初めて会話を交わしたのだ。突然そんな文句を言い放たれ、ちょっと困惑はしたものの、女性の様子から事が尋常ではないことが伝わってくる。

女性をここまで激昂させた状況を把握しなければならないので、俺は「お話をゆっくりと聞かせて頂きたいので、静かな場所へ移動して頂いてもいいですか?」と伝えた。その言葉に女性は小さく頷き、主任帯同のもと女性をバックヤードの会議室に通した。


会議室に移動してもらうと、冷蔵庫からお茶やコーヒーを出して女性の前に並べる。場所がかわると女性は少しは落ち着いてきた様子でお茶を手に取り飲み始めた。俺はしばらく話しかけずに立ちながら様子を見ていたが、彼女が落ち着いてきたこともあり、目の前の席に座り話しかけることにした。

「今日私はお客様と初めてお会いしましたが、先ほどおっしゃられた店長が『出る』台を教えたという話はどういうことなんでしょうか?」

そう尋ねると女性は思い出したように話し始めた。

「あなたはここの店の店長でしょ。あなたが今日『出る』って言った台を私は買ったのよ。それなのに全然出ないじゃない!!」

と女性に言われても、頭の中は依然「?」のままなので、俺は再び女性に聞き返した。

「私が『出る』って言った台を買ったというのはどういうことなんですか?」

再び聞き返したことで、俺がしらばっくれていると思ったのか、女性は俺をキリッとにらみつけて、財布から何やらメモを取り出した。取り出された手のひらほどのメモ用紙には、赤い文字で書かれた数字がいくつか並んでいた。俺はそのメモを見せられて驚いた!

「これはどこで手に入れたのですか?」

あまりにも驚いた様子で俺が聞いたせいなのか、女性が何かを察知したのか、先ほどまでの挑発的な表情が一変した。そして今度は懐疑的な眼差しでこちらを見ながら話を続けた。

「いつものコンサルタントのおじさんから5000円で買ったのよ。店長といつも無線でやり取りしている人じゃないの?」

俺はここまで話を聞いて、ようやく状況が掴めた。どうやらこの女性が言うコンサルタントという人間が「店長から今日『出る』台を教えてもらっているから、その台の情報を5000円で買わないか?」と客に持ち掛けており、客がその話に乗ると台番号が書かれたメモが手渡される仕組みが見えてきた。そして今日、この女性はその情報を買ったが、メモに並んでいる台番号の台を打ったが出ないということで俺に文句を言ってきたということなのだと。

状況を把握した俺はゆっくりとした口調で、「お客様、大変申し訳ございませんが、当社ではコンサルタントという人間を雇ったこともありませんし、わたし自身も一切その様なことに関わったことはありません。おそらくですが、それは『コーチ屋』という詐欺に遭われたのだと思います」

俺の言葉を聞いた女性は驚いた様子で言葉をなくし、ため息をついた。その様子を見るに、どうやら状況が飲み込めてきたようだ。

女性も落ち着き、今回の件が詐欺の類だと分かっても解決にはなっていない。この様なことが私を巻き込み起こっている以上、他のお客様が毒牙にかかることも考えられる。

「申し訳ございませんが、その時の状況をもう少し詳しくお話し頂けませんでしょうか? こちらとしましても、できる限りのことはさせて頂きますので」と女性に伝えた。

女性は小さく頷き、ゆっくりと話を始めた。
(つづく)



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