スネークヘッドの構成員が店員に紛れ込んでいた!? ハイテクゴトの手口とは?

シリーズ名
現役ホールマネージャーだけど、なんか聞きたいことある? (毎週日曜日更新)
話数
第83回
著者
アタマキタ
この日が金曜だということもあるだろうが、閉店5分前になっても勝負に興じられているお客様は多かった。スタッフは各席を回り、もうすぐ閉店であることを慌ただしく伝えていく。そんな姿を見届けながら俺はいつものようにカウンターにサインを送ると、間もなく場内放送は閉店音楽へと切り替わっていく。

それを合図に俺は店内の様子の最終チェックへと向かった。もちろん、花らんまんのコーナーも目に入ってくるわけだが…。お客様は誰も座っていなかったが、件の台の大当たり回数はさらに伸びていて、実に80回に到達していた。


そして閉店時間を迎える。おそらく快勝したのだろう、最後のお客様は笑顔で退店されていく。その嬉々とした背中をぼんやりと見つめながら、俺の心は裏腹にどんよりと曇っていった。

「俺の想像通りなら長い夜になりそうだなあ…」

そう思いながらゆっくりと店頭のシャッターを閉める。

閉店作業は種々雑多だ。大まかには外周り・出入口付近の清掃、パチ・スロそれぞれの台清掃、カウンターの締め作業や補充関連、そして売上金の計算と入金業務に分けられるが、俺の担当は各両替機を回って売上金を回収すること。それ以外はスタッフで分担していく。俺はバッグに金を詰めるとそれを事務所に運んだ。

事務所の扉は8桁の暗証番号の認証で開くようになっており、番号が一致すると「ピッピッピッ」という音と同時に扉のロックが解除される。普段は気にも留めないこの無機質な電子音だが、この時はふとした考えが頭を過った。

「この解除音はちょっと邪魔になるかもな」

すぐに自動ロックを無電力に切り替え、音が鳴らないように設定を変更した。


回収した売上金を一旦金庫の中に押し込み、前日と同様、脚立を使ってゆっくりとブラインドのある窓まで登る。

ちょっと分かりにくいと思うので補足すると、このホールの事務所は入口こそ施錠されて部屋然としているが、実は天井から50センチ程度の空間は完全に開かれていてホールとひとつながりになっている。そこで、その隙間を埋める意味でブラインドが取り付けられているというわけだ。

この場合、消防法的に「部屋」とはカテゴライズされないため、煙センサーや消火器、スプリンクラーなどは設置せずとも問題ない。その代わり、言わばパーテーションで区切っただけのようなものなので、遊技の音やホールのBGMなど、あらゆる音が流れ込んでくる。慣れないと相当にうるさく感じるだろうし、実際、しっかりと声を張らないとまともに話もできない。


そんな書き割りのような舞台裏によじ登った俺は、ブラインドの1枚の羽に指をひっかけ、ゆっくりと力を込めた。と当時にか細い金属的な抵抗の向こうからホールの光が飛び込んでくる。昨日とは全く違った心境であったし、悪い想像が浮かぶと手が震えてくるほどだったが、かっと目を見開いて現実と向き合う覚悟を決めた。

かなり上からの視点なので見えにくいのは否めないが、角から3番目、つまりこの日の主役たる例の花らんまんはしっかりと視界に収まっている。そして昨日と同じように閉店作業が進められていた。この光景にパッと見で違和感はないのだが、台を開けて作業しているのは、前日たまたま目にした時と同じスタッフ、Aだった…。


スタッフAは入社から3カ月程度の新人で、真面目でおとなしい印象。勤務態度は良好で、このままいけば戦力になるだろうと考えていた。ちなみにAは中国国籍で、同じく中国籍のBという友人とほとんど同じ時期に働き始めている。

前日は気にも留めなかった光景ではあるが、まさに今、眼下で開け放たれているその花らんまんで起きた異常な挙動を加味するとまったく違ったものに見えてしまう。気のせいであれば申し訳ない話だが…。


とはいえ現実に「何か」が起こったことは間違いない。もし仮に今回のことが彼らによる仕込みだったとすると…。Aはあそこで作業を進め、おそらくBはどこかで他のスタッフを監視しているはずだ。そう思い辺りを見渡したが、Bの姿をとらえることはできなかった。

しかし、Aについても同様にケアを続けなければならない。Aと見えないBにも注意を払いつつジリジリと時が経過していく。10秒、20秒、30秒…一秒一秒が異常に長く感じられる。


…とその時、Aが何かを気にするように体を外側に逸らせ、台を閉めようとしている。ネタを隠されたらどうにもできないと思った俺は急いでホールに下りることにした。

ちなみに、事務所のドアを手動に切り替えておいたのは、ここを出る時に音が鳴らないようにしたかったから。事務所を出ていく音に気が付かれるようだと、肝心なところで取り逃すかもと懸念したのだ。


ゆっくりとドアノブに手をかけ外に出よう…としたのだが扉が開かない。先手を打たれてしまったのか!? このままではマズいと思い、俺はドアを押し破るつもりで体当たりをカマした。

ドカン! ドカン! 1回2回…びくともしないというよりはわずかながら鈍い反応が感じられる。施錠されているというよりは、障害物によって塞がれているという印象だ。これなら突破できそうだと挑んだ3回目、今度は抵抗なく扉が開いた。すかさずホールへと駆け出していく。


わずか数秒のことだが、鮮明に記憶に残っている。事務所を勢いよく出た瞬間、ホール方向とは反対外の廊下奥にある自動販売機の物陰にBの姿を捉えたのだ。

「あれだけ探していたのにこんなところに居たのか…」

そう思ったのとほぼ同時、強烈な痛みに襲われ、俺はその場に倒れ込んでしまった。

「っつ、いてぇ…」

Bは事務所から飛び出してきた俺の様子を見ていたようで、スチール製のモップの柄の部分を振りかざして、後ろから殴りかかって来たのだ。さらにそれだけでは物足りないようで、倒れこんだ俺の背中に追い打ちをかけるように渾身の一撃を喰らわせてきた。苦悶しながらも視線だけはBの背中を追い続けると、BがAを引っ張って外に出ていこうとしているのが見える。


俺は朦朧としながらも何とか立ち上がり、急いでホールへと駆け下りたが、2人はまさに外に出ようとしているところだった。

「いや、絶対に捕まえてやる!」

背中の痛みを忘れて表まで追い掛けたのだが、時すでに遅し。少し先に停車中のワゴン車にAとBが飛び乗るのが見えた。

急発進でその場を去って行くワゴンには、遠目からでも分かる程に多くの人間が乗りこんでいる。助手席にいた男などは青龍刀のようなものを手にし、むきだしになった刃でこちらを威嚇しているように見えた。


まあ苦い経験となってしまったが、これが俺にとって初めて遭遇したハイテクゴトの顛末だ。警察に被害届は出したのだが、その後奴らが捕まったという話は聞いていない。ただし、奴らがスネークヘッドの構成員だということは、警察の調べで早い段階から聞かされた。

あの時、もし自分以外の者が対処していたら一体どうなっていたかと思うとゾッとしてしまう。ゴト師から傷害を負わせられなどしたら、どう謝っても謝り切れるものではない。万が一なんてこともあるだろうし…。


ちなみに、後に奴らが捨てて行ったネタを回収して調べてみたところ、アタッカーの10カウントセンサーが断線していた。そしてこのアタッカーを他の台に取り付けてみると、やはり同じように芋づる式に連チャンがかかり始めたのである。

これは後日談だが、CR満員御礼という西陣の機械で16万発近く出たことがある。これを打っていたのは常連のお客様で、朝からずっと打たれていたとのことだったので最後まで打って頂いたのだが、閉店後にアタッカーを調べたところ、こちらもテンカウントセンサーが断線していたことが分かった。そんなことがあり、上記2機種は忘れたくても忘れられない機械となった。
(おわり)



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