【ゴト師との闘い】明らかに挙動がおかしいがゴトの手口がわからない……

シリーズ名
現役ホールマネージャーだけど、なんか聞きたいことある? (毎週日曜日更新)
話数
第82回
著者
アタマキタ
当時の俺の認識では、ゴト師といえば磁石などを使って一発台を狙う奴ら、もしくはセルロイドを忍ばせてアタッカーやチューリップを狙うような、いわゆる"ローテクゴト師"であった。そんな中で降りかかってきたのが今回の一件。


事件のあった当日は遅番だった。出勤後、いつものように業務の引き継ぎをしようと、もう1人の主任とともにホールに向かったのだが、2階の事務所から1階のホールへ向かう途中、否応なく店内の異変に気付かされる。

足早に階下へ進み、お客様をかき分けるように先を進むと、花らんまんの一角で城壁のようにドル箱が積み上げられていた。

「1つ、2つ、3つ……66」

当時のドル箱は現在のものよりかなり大ぶりだ。1箱で2000個〜2500個は入るのが基本なので、少なく見積もっても13万発は吐き出している計算になる。この台の大当たり確率は1/236.5、大当たり1回あたりの出玉は約2250個。保留連チャン機とはいえ継続率は20%程度だから、この機械のポテンシャルからするとあり得ない出方だと言わざるをえない。

現在のものほどしっかりしたデータは取れないものの、当時もホールコンピューターは導入されている。そこで俺はこの台がいったいどんな出方をしたのかが気になり、すぐに踵を返して事務所へと向かった。


事務所の扉を開けると、険しい表情で腕組みをするマネージャーが目に入る。ホールコンピューターのデータを見ているようだったので、店内で目にした光景を伝えると、やはり花らんまんの異常に気付きデータを検証しているとのことだった。

コンピューターから排出されるデータを見てみると、ローテクゴトによるものであればはっきりと分かるような痕跡(例えばアタッカーをこじ開けて玉を得ようとするなど)を捉えることはできなかった。どうやら単純な話ではないようだ。まあ、あの尋常でない出玉を見ればそのような手口でないのは明らかと言えなくもないのだが…。

とりあえず、何か分かるかもしれないし他に同様の事例があるかもしれないということでメーカーに連絡を入れてみた。しかし、「たまたまだと思うので今日は様子を見てもらって、明日も異常が見られるようなら対応しますから」とにべもない。


プリントされたデータを見ながらマネージャーは頭を抱えていた。

「大当たり自体はしっかりカウントされているから実際に大当たりが発生しているのは間違いないようだが…」

俺はマネージャーが机に投げ出したデータのプリントを手に取ってじっくりと目を通してみたのだが、そこで初めて明らかな異変に気が付いた。それは、この台の当たり方に関する特徴からの違和感だ。

この機械は保留連チャン機なわけだから、大当たり回数が異常だとしても、それが4回転以内の連チャンというのであればまだ納得のしようもある。しかし印字された文字色の濃さとは裏腹にその痕跡は極端に薄かった。つまり、保留内での連チャンがただの一度もないのだ。

ではどのような当たり方をしているのかというと、やはり連チャンは連チャンなわけだが、ほとんどが大当たり後30回転以内の引き戻しとなっている。この機種においてこんな挙動があり得るだろうか?


さらに細かく見てみると、大当たりの出玉がまちまちであることに気付いた。概ね1回の当たりで2300個出る機械なのだが、この疑惑台の挙動は1800個だったり2500個だったりとかなり不安的である。念のため前日のデータを引っ張り出してチェックしてみたのだが、やはりほとんどの出玉が2300個前後となっている。

「もしかしたらテンカウントセンサーの異常かもしれない」

当時は10個入賞でアタッカーが閉じて次のラウンドに進むという台がほとんどだったため、テンカウントセンサーというのは書いて字の如くで、アタッカー内部に入ってきた玉の数をカウントするものだ。別のメーカーの機械だが、以前このセンサーが異常になった際は、センサーが玉を計測しないために全ラウンド30秒間空きっぱなしで玉が入り放題という事態に。こうなると1回の大当たりで6000個近く出てしまうこともある。

これらの気になった部分をマネージャーに進言したのだが、閉店まであと1時間ということもあり、すぐに機械を止めて点検するのは避け、閉店後に台を見てみようということになった。花らんまんはそれからも大当たりを続けて順当に出玉を増やしていく…。


閉店の時間が近づくと、俺は事務所に戻ってクローズ準備を進める。そしてひと通りの作業を終えて煙草に火を点けてぼーっとしていると、ふと、前日の出来事が頭に浮かんできた。

「まさかな…」

それは閉店直後のことだった。売上計算をしようと集金したお金を机の上に並べていると、突然扉が開き、大きな声が事務所に響いた。

「はい、ストップね」

声の主は経理部長。普段は昼間しか見かけない部長がなぜこんな遅い時間に事務所にやってくるのかと訝ったが、どうやら年に一回くらいのペースで行なわれる抜き打ちのチェックらしい。

中には用意されたつり銭を使い込んだり売り上げをくすねるなどの悪さをする従業員もいるから、こういったチェックは確かに必要だろう。俺は指示された通り机から離れ、長椅子に腰掛けて売り上げチェックの様子をぼんやりと眺めていた。

「こんなの面倒だしやりたくないんだけど、まぁ社長がやれってうるさいからさぁ」

部長の口からは会社の愚痴が滞りなく連なって出てくる一方、慣れていないせいもあるのだろうが、肝心のチェックについては一向に進まない。手つきがあまりにぎこちなく、見ているだけでもどかしさからイライラが込み上げてくる。


このままただ苛立ちを募らせるくらいならと、拭き掃除でもしようと雑巾を手にとった。しかし相方の主任が几帳面な性格ということもあって、掃除を思い立ったはよいが見える部分についてはすでにかなりの清潔が保たれている。

それならばと、手の届きにくい箇所だったり普段は掃除しないような部分にとりかかることに。まずはじっくりと蛍光灯を拭いて汚れを落とす。それでも部長のチェックは終わらないので、次にブラインド清掃にとりかかる。


ブラインドは一見すると綺麗に思えたが、実際に拭いてみると思いのほか汚れていた。羽根1枚1枚をじっくりと丁寧に拭きこむと、くすんだ色がにわかに明るさを取り戻していく。

そのブラインドの隙間から階下の店内に視線を移すと、スタッフがしっかりと掃除している。この時ふと、「意外と眺めが良いもんだなぁ〜」などと呑気なことを考えていたのだが、その時の様子を振り返ると少し気にかかることが出てきた。特別に誰かを見ていたわけではなく、全体をぼんやり眺めていただけなので確信めいたものはないのだが…。


「いや、まさか…」

何度何度も自問自答したのだが、どうもスッキリしない。でももし俺の想像が当たっているならば…すべての辻褄が合ってしまう。そう思うと途端に店を閉めるのが怖くなってきて、足が震え動悸も激しくなっていく。

「でもやるしかない!」

顔を両手でパンパンと叩き、俺は決意を固めた。大きな深呼吸をして閉店前のホールへと飛び出していく。
(つづく)



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