【設定漏洩事件 完結】遂に全てを話したF主任。彼女が設定漏洩を始めた驚愕の理由に愕然とした…

シリーズ名
現役ホールマネージャーだけど、なんか聞きたいことある? (毎週日曜日更新)
話数
第65回
著者
アタマキタ
ギョロ目男が放り投げた携帯を受け取り、適当にボタンを押してみる。やはりロックがかかっているようだ。

「ところで阿久津さん。私がなんであなたを阿久津さんとお呼びしたのか…不思議だと思いませんか? その時点で、明確な理由があってここにご同行いただいたのが分かってもらえると思ったのですが」

後ろにい控える店長に携帯を渡しながら話を続ける。

「さて、お二人はお互いを知らないと言っておりましたが、本当にそれで間違いないでしょうか?」

「…」

どちらからも返事はない。F主任は何も言わずこちらをじっと見つめているが、男は落ち着かない様子で目を合わせようとはしない。


「では…これからですね、このF主任の携帯からあなたの携帯を鳴らします。当たり前ですが、他人であれば番号が登録されていることはないでしょうから、着信があっても名前などが表示されることはないと思います」

俺はできるだけ冷静に話しかけているのだが、男はどんどんと苛立ちを募らせていく。

「お前が何で俺の携帯の番号を知ってるんだよ!」

「いや、番号は分かりません。でもこれで潔白が証明されるのであればすっきりするのではないですか? 番号を教えていただけますよね?」

「ふざけんな! お前らに番号を教える必要なんてないんだよ! もう必要ねえなら携帯も返せ! もう帰るからな!」

こちらが番号を知らないと思って安心したのか、知らぬ存ぜぬで逃げ切りを図ろうとしているのかもしれない。

ここで俺はF主任の携帯を操作し、彼女の端末から阿久津の形跡を探すことに。しかしアドレスのメモリーや着信履歴にはそれらしきものを見つけることはできなかった。


ここで店長が1枚のメモを俺に差し出した。そこには「090」で始まる数字の羅列が記されている。俺はその11桁の数字を間違いのないようしっかりとFの携帯に打ち込み、ゆっくりと発信ボタンを押す。

F主任の携帯を耳にあてると、どこかに繋がった証拠となるコールが始まった。そして…

「トゥルルルルル…」

店長が手に持っていた阿久津の携帯から放たれる残酷なまでの呼び出し音が部屋の空気を激しく揺さぶっている。そして、振動と明滅を繰り返すその端末には、これ以上ない形でF主任の名字が表示されていた。俺は2人の前に端末を静かに置き、二人の顔を睨みつけた。

「見ての通りです。あなたたちは私に嘘をつきましたね? 他人であるはずなのになんで当店のF主任の名前が登録されているんですか?」

さきほどまでの威勢はすっかり失われ、男はうなだれている。F主任もうつむいたまま何も話さない。しばらくの間、重い沈黙が続く。

数分のことだったかもしれないが、俺にはとてつもなく長く感じたし、どんどんと胸も苦しくなっていく。しかし彼等が口を開くのをじっと待つ。


沈黙を破ったのは意外にも阿久津だった。

「すみませんでした…」

その言葉で感情の堰が切れたのか、F主任は両手で顔を抑え込み、肩を激しく上下させて泣き声を押し殺している。

俺はここで、「二人とも認めるんだな?」と尋ねると、二人は無言で首を縦に振る。あっけない幕切れとなった。


「あなたたちの行なったことは犯罪です。軽い話ではありません。出来心で済まさせる話でもありません。警察に通報すればすぐに逮捕され、懲役刑が待っています」

俺は慎重に言葉を選び、念を押すように話しかけた。

「これからいくつか質問をします。もし…その質問に1つでも嘘をついたら、その時点で容赦なく警察に証拠物件を差し出します。それで終わりです。その時点でもう私は何も信じません。だから、これから聞くことについてはすべて正直に答えて下さい。良いですか?」

二人が静かに頷くのが見えた。


まず阿久津に身分証明書を提示させ、住所、氏名、年齢、そして勤め先を書いてもらう。そしてそれらに間違いがないか照合。仕事についても、友人を装って実態があるかどうかの確認もした。どうやら嘘はついていないようだ。

男に質問を続けると、二人の関係、そして手口も見えてきた。


「F主任とはどういう関係?」

「小学校時代の同級生です。今も住まいが近くて…」

「この話はどちらから持ち掛けたの?」

「Fさんです」

「高設定の台番号はどうやってやり取りしてたの?」

「携帯のメールです。打ちに行ける日にはFさんから情報を送ってもらってました」

「これまでいくらうちの店から抜いたの?」

「6日間で30万円くらい…31万だと思います」

「お金のやり取りは? 分配は?」

「Fさんにお金は渡していません。そういう話ではなく、出した分はもらって良いという話で…」


被害額についてはこちらが調べた数値と概ね一致したため、本人の了承をもとに全額を返却してもらうことになった。そしてこれまでの不正行為を全て認めさせたうえで紙に書き出し、その書類に署名させる。顔写真を撮り回転指紋も押さえた。

今後この件で店に対して嫌がらせをしたり、あらぬことを言い立てるようであれば、すぐに警察にこの書面を持って駆け込むということを念押し、当店への出入り禁止を言い渡す。そこでようやく本人を解放する。聞けば阿久津には妻も子もいてマイホーム暮らしとのこと。さすがにもう間違ったことはしないだろう。


これで男については解決したが、どうしても腑に落ちないのがF主任の行動だ。本人も強く否定したが、阿久津が言うようにF主任に金は渡っていないようである。では一体何が目的でこんなことをしたのか…。

F主任と二人きりになった会議室で、俺はそのことを尋ねてみた。しかし彼女はずっと声を押し殺して泣き続け、やっと声を出したと思っても後が続かない。どうにも話ができるような状況ではなかった。

しかし俺は彼女が落ち着くまで待ち続けた。真面目な彼女がこういう行為に至った動機は非常に重要だ。俺の運営方法に重大な欠陥があるのかもしれない、そう思ったからだ。

しかし…返ってきた答えは予想だにしないものだった。


「私のチームはジャグラーを担当しています。みんなで連日、遅い時間まで、お客様にジャグラーを楽しんでもらえるようポスターやPOPを手掛けてきました。そして店長には毎日高設定を入れてもらっています。それなのにお客様の付きがイマイチで…。毎日設定を打っていると、店がこんなに努力しているのになんでそれがお客様に伝わらないのかと、それがもどかしくて。それで少しでも長い時間打ち込んでくれそうな人を考えた時、近所に住む阿久津さんが頭に浮かんだのです。彼は時間の都合がつけやすいのを知っていましたし、昔から付き合いもあって信頼できたので…。それで、私から打ちに来てもらえないかと相談しました。正直言って今日言われるまで罪の意識はありませんでした…」

話を聞き終えると、思わず深いため息がこぼれた。なんて理由なんだ…。

当時は確かに、主任を中心として機種毎にチームを作り、それぞれがそのコーナーを盛り上げるということに一生懸命だった。それがまさがこんな結果に繋がるとは…。激しい脱力感に見舞われながらも、俺は力なくF主任に退職を命じた。

すると彼女は深々と頭を下げ、「今まで大変お世話になりました」と力なく口にし、数時間後には会社を去っていったのである。


正直に言えば、今でもあの時の判断は正しかったのかと思い悩むことがある。しかしながら、どんな理由があろうとも彼女のやったことはルール違反であるし、決して許されることではない。ただ、その一線を越えるハードルが余りに低かったのかもしれないと反省している。つまり、もっとしっかりと設定管理を行なっていれば彼女がそのような行為に走らずに済んだのでは? とも思うのだ。

それ以来俺は、設定表の管理やチェックについては、誰が見ても過剰なほどに行なっている。何回か前のコラムで設定漏洩を防ぐテクニックを書かせて頂いたが、それはこういった失敗があったからこその学びである。

このコラムを見ている人、ホール関係者には、俺と同じような間違いを犯してらいたくない。そういう想いから、ある意味自分の恥部なのだが、包み隠さず書かせていただいた次第である。
(おわり)



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このコラムを読んですっきりしない方も多いかもしれない。それは恐らく、なぜ我々が阿久津の名前や電話番号を知っていたのかという部分ではないだろうか。謎解きというほど大袈裟なものではないが、話の流れ上書けない事情があったので、最後にその辺りにも触れておきたい。

店長が主任たちを緊急招集したという描写があったはずだが、実は、あれはF主任が着替えを始めたタイミングを見計らってのことだった。つまり彼女が更衣室に入った直後、すぐさま事務所に来るように伝えたのだ。すると、真面目な性格ということもあってよほど急いだのだろう、携帯電話をその場に残して会議室に向かったのだ。

そこで携帯メールの内容を確認し、設定情報のやり取りの裏を取る。そしてそのメールの送り先を調べると阿久津という人間が浮かび上がったわけだ。そこからアドレス帳で電話番号を調べるのはたやすいことである。

もちろんフェアなやり方でないことは承知の上だ。これで上手くいくかも分からなかったし、メールが残っていない可能性もあったろう。ただ、こちらも随分と焦っていたので、できることはなんでもやるつもりだった。


誰に何と言われようが、店を守り、お客様を守り、そしてスタッフを守るためには何だってする。それが俺の信条だ。そのためには、稀なことではあるが、信じていたスタッフをこのような形で切らなくてはならないこともあるのだ…。辛いことだが仕方がない。

しかしながら、そういった想いや覚悟がなければ責任者になる資格はない。俺はいままでもこれからもそう思い続けて仕事をしていくつもりだ。
(おわり)


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