最終局面!ここで俺が追い詰められなければ、今度はこちらの身が危なくなる……

シリーズ名
現役ホールマネージャーだけど、なんか聞きたいことある? (毎週日曜日更新)
話数
第64回
著者
アタマキタ
「すみません、阿久津さん!」

不意に呼びかけられて思わず振り向く…というのは、普通の人間であれば真っ当な反応である。しかし、もし心にやましさを抱えているとしたら脇が甘いと言わざるを得ない。不正に慣れ過ぎて緊張感を欠いているのか、ただの間抜けなのか...ま、大きなお世話だろうが。

いずれにせよ、店長の呼びかけに振り向いたギョロ目男の気まずそうな顔つきを見て、俺は瞬時に、ここは一気に畳み込んだ方が良いと悟った。しかし店長はこの手の経験値はそれほど高くないため、そこまでの確信を得ていないかもしれない。

そう判断した俺はすかさず、様子を窺うために身を隠していた物陰から飛び出し、店長の機先を制す格好で男の前に立ち塞がったのである。

「お客様、すみません。先ほど出していた台のことでちょっとお話を聞かせてもらえませんか?」

激しく動揺しているのが手に取るように分かる。とはいえ、ここでは逆らう様子は見せず、店長に促されるままに事務所へと入っていった。


ひとまず男のことは店長に任せ、俺は再び4人の主任が待つミーティングルームへ戻る。さらに、何もなかったかのように、「さて、順番に携帯をチェックさせてもらおうか。まずは…じゃあF主任から」と伝え、彼女だけ部屋に残ってもらった。

他のメンバーが表に出たのを見計らい、「セキュリティを解除してメール画面を開いたら携帯を渡してくれ」と伝えると、彼女はためらう様子もなく、スッと携帯を差し出す。

おおよそ携帯でのやり取りは予め削除してあるのだろう。それはこちらも織り込み済で、案の定それらしき形跡は何一つ残っていなかった。俺は何も言わず、静かに携帯を返した。


F主任は携帯を手に取ると、安堵の表情を浮かべる。そして部屋を出ようと立ち上がったので、そこで俺はボソっと呟いた。

「…たな?」

「え? 何でしょうか?」

聞き取れなかったようなので、改めてはっきりとこう告げた。

「お前…消したな?」

落ち着いた表情は一瞬にして消え去り、顔つきが険しく曇っていく。F主任は強い口調で「私を疑っているんですか?」と詰め寄ってきた。

「とりあえず座ろうか?」

俺はF主任を制しひとまず席に座るよう指示すると、そのまま店長に電話をかけた。

「経過はどうだ? 何かしゃべったか?」

「何を聞いても『知らない』の一点張りです。早く帰してくれと騒いでおり、これ以上拘束するなら監禁罪で訴えると言われました」

そう簡単に落ちるとは思っていないが、案の定ギョロ目男は自分が不正を働いていることを認めていない。

「それじゃあこっちに連れて来てよ」

店長とギョロ目男はすぐにミーティングルームにやってきた。俺は男に対し、F主任の横に座るよう促す。


さぁどうしたものか…と思う間もなく、男は喚き散らしてきた。

「俺は予定があるから帰りたいんだよ! お前ら監禁罪で訴えてやるからな!」

これまでもこうやって逃れてきたのかと思いながらも、俺は丁寧に言葉を選んだ。

「すみませんね阿久津さん、お忙しいところ。ちょっと聞きたいことがありましてお呼びたていたしました。すぐに済みますのでご協力を願いいたします」

「なんなんだよ!」

「とりあえず落ち着いてくださいよ。実はですね、阿久津様が来店されるようになったのは最近かと思いますが、不思議とですね、来られるたびに高設定台に座られてたんですね。そこで色々調べてみたんですが、当店のスタッフしか知りえない設定情報が漏れているのではないかという話になりまして」

男は挑発的な表情でこちらを睨んでいる。ギョロ目度が増しているように見えた。

「それで今日のことですけどね。阿久津さんが先程まで打っていたジャグラーなんですが…打っていてちょっと変だなと感じたかもしれませんけど、実はあれ、設定1なんですよ」

"設定1"という言葉に反応したのがハッキリと分かったが、俺は淡々と話を続けた。

「そこで、ですけどね。阿久津さん、隣にいるのは当店のFというものですが、ご存じではないでしょうか?」

男はF主任の方を見向きもしなかったが、すぐに「知るわけねえだろ!」と叫んだ。

俺はF主任に対してもこの男を知らないか? と聞いてみると、彼女も「知らないです」と即答する。


ここで男は痺れを切らし、「もう良いだろ! 俺は関係ねーから! もう行くからな!」とキレ気味に席を立ち扉の方へ進んでいった。しかし、すかさず進路にカットインした店長になだめられ、不貞腐れながらも再度腰を下ろす。

「すみませんね。もうすぐ終わりますから。それで、これが最後なんですけど…携帯を見せてもらえませんか?」

どうとでもしろというように、ギョロ目男は放り投げるようにテーブルの上に携帯を置いた。

ここでもし俺がこの男を追い詰められなかったら、今度はこちらの身が危なくなるだろう…。
(つづく)



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