4人の役職者を集めて緊急会合…そして最後のチャンスを与えたが犯人は名乗り出なかった……
- シリーズ名
- 現役ホールマネージャーだけど、なんか聞きたいことある? (毎週日曜日更新)
- 話数
- 第63回
- 著者
- アタマキタ
こいつは何者なのだろう? 近所に住んでいるのか、単なる打ち子なのか、それともF主任の弱みに付け込んで設定を教えるよう強要しているワルなのか…。
ギョロ目男が時折見せる用心深い警戒の眼差しは、これまで俺が排除してきたゴト師連中の仕草そのもの。これだけ見てもこの男がクロだということは自分の中で疑うべくもないのだが、あくまでそれは経験則でしかなく、証拠と呼べるようなものは何一つない。
手を出せない自分に腹立たしさが募り、ギョロ目男をモニターで追いかけているだけでイラつき度合が高まっていく。しかし今はこいつの一挙手一投足を見逃さないように監視するしかないのだ…。
16時15分、遅番スタッフの出勤時間を迎える。いよいよアクションを起こさなければならない。
俺はまず店長を呼び出し、とある指示を出すことにした。店長は俺の意図を理解したのだろう、ゆっくり噛みしめるように頷くと、すかさず準備のために事務所から出て行った。
その後もしばらく事務所でギョロ目男のモニタリングを続けると、時刻は16時45分を指し示していた。
「そろそろ、か」
モニター越しに男を睨みつつもゆっくり椅子から立ち上がると、俺はミーティングルームへと移動。そこでゆっくりと大きく息を吐いてから奥の席に腰を下ろす。
その直後、当日出勤していた4人の役職者がぞろぞろと入室してきた。一様に不思議そうな顔つきで、それを忖度するかのように主任の一人が次のように尋ねた。
「何かあったのでしょうか…? 店長から、緊急ミーティングがあるから至急ここに来るようにと伺ったのですが」
俺はその問いかけに無言で頷き、ひとまず4人全員を席に着かせると、軽く雑談をしながら店長がやってくるのを待った。もちろんそこにはF主任の姿もある。
しばらくすると手に数枚のコピー用紙を持った店長が現れ、それを俺に手渡すとすぐに部屋を後にした。そのコピー用紙の一番上の紙には店長の文字でしっかりと「F」と記されており、俺はそれを見るなり席を立ち、覚悟を決めてゆっくりと話し始める。
その書類の中の1枚はギョロ目男の写真がプリントされており、俺はそのコピー用紙を机の中央に突き出し、「この人物を知っているか?」と聞きながら全員の様子を窺った。もちろん注意深く観察するのはF主任だけである。しかしながら彼女からは動揺する様子が塵ほども見受けられない。そして全員が「知らない」と口を揃えた。
ここまでは予想通りである。そこでこの写真の意味、そして設定漏洩が濃厚であること、さらにここまでの経緯全てをつまびらかに説明した。F主任に疑いがかけられているということを除いて…だが。
この沈黙を破って「自分がやりました」と申告する者はいない。仕方がないので「全員の携帯をチェックさせてくれ…」と告げると、全員があっさり協力に合意した。
もちろん、設定を漏洩できる人間が限られているということはここにいる全員が分かっているわけで、この中の誰かが犯人であり、少なくともこの時点では全員に疑いの目が向けられているということをこの部屋にいるみんなが悟ったはずである。一気に空気が重くなったが、それぞれが覚悟を決めた顔つきになったように感じた。
4人のうちF主任ともう一人は、携帯をロッカーにしまってあるということだったので、俺はそれを取りに行くよう指示を出した。
再び全員が揃ったところで、俺は念を押す。
「全員携帯を机の上に置いて、目を閉じて下を向いてくれ。最後にもう一度だけ言っておく。今回の設定漏洩の件に関わっている者がいたらここで手を挙げてくれ。もし犯人が明らかになった後で謝罪されても、内々に処理することはできない。刑事事件として取り上げるしかなくなる。最後のチャンスでもありお願いでもある。今から十を数えるうちに手を挙げてくれないか…」
全員が目を瞑ってからカウントを始める。
「10、9、8…」
俺の視線はF主任に向いている。手を挙げるのだろうか…
「3、2、1…。よし、目を開けてくれ」
どの手も挙がることはなかった。
俺が全員にメール画面を開くよう指示したちょうどその時、店長が慌ててミーティングルームに駆け込んできた。全員にそのまま待機するよう伝えて部屋を出ると、ギョロ目男がコインを流したので退店するかもしれないとのこと。すぐに事務所に戻ってモニターで確認すると、カメラは景品カウンターに向かう男の姿を捉えている。
すかさず裏口近くに店長を配置して指示を出す。
「時間がない。まずは奴の背中越しから名前を呼んで振り向かせろ。そして、F主任がどうしてもお話があるからと伝え、客人を迎えるように親切丁寧に事務所に誘い込め!」
店を出た男に向かって歩き出す店長の後ろ姿を、俺はじっと見守っていた。店長はゆっくりと奴の背後に回り込み、一歩ずつ間合いを詰めていく。そして男のすぐ背後につけると、
「すみません、阿久津さん!」
優しい口調でそう呼び止めた。男は何のためらいもなく返事をしているように見える。
(つづく)
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ギョロ目男が時折見せる用心深い警戒の眼差しは、これまで俺が排除してきたゴト師連中の仕草そのもの。これだけ見てもこの男がクロだということは自分の中で疑うべくもないのだが、あくまでそれは経験則でしかなく、証拠と呼べるようなものは何一つない。
手を出せない自分に腹立たしさが募り、ギョロ目男をモニターで追いかけているだけでイラつき度合が高まっていく。しかし今はこいつの一挙手一投足を見逃さないように監視するしかないのだ…。
16時15分、遅番スタッフの出勤時間を迎える。いよいよアクションを起こさなければならない。
俺はまず店長を呼び出し、とある指示を出すことにした。店長は俺の意図を理解したのだろう、ゆっくり噛みしめるように頷くと、すかさず準備のために事務所から出て行った。
その後もしばらく事務所でギョロ目男のモニタリングを続けると、時刻は16時45分を指し示していた。
「そろそろ、か」
モニター越しに男を睨みつつもゆっくり椅子から立ち上がると、俺はミーティングルームへと移動。そこでゆっくりと大きく息を吐いてから奥の席に腰を下ろす。
その直後、当日出勤していた4人の役職者がぞろぞろと入室してきた。一様に不思議そうな顔つきで、それを忖度するかのように主任の一人が次のように尋ねた。
「何かあったのでしょうか…? 店長から、緊急ミーティングがあるから至急ここに来るようにと伺ったのですが」
俺はその問いかけに無言で頷き、ひとまず4人全員を席に着かせると、軽く雑談をしながら店長がやってくるのを待った。もちろんそこにはF主任の姿もある。
しばらくすると手に数枚のコピー用紙を持った店長が現れ、それを俺に手渡すとすぐに部屋を後にした。そのコピー用紙の一番上の紙には店長の文字でしっかりと「F」と記されており、俺はそれを見るなり席を立ち、覚悟を決めてゆっくりと話し始める。
その書類の中の1枚はギョロ目男の写真がプリントされており、俺はそのコピー用紙を机の中央に突き出し、「この人物を知っているか?」と聞きながら全員の様子を窺った。もちろん注意深く観察するのはF主任だけである。しかしながら彼女からは動揺する様子が塵ほども見受けられない。そして全員が「知らない」と口を揃えた。
ここまでは予想通りである。そこでこの写真の意味、そして設定漏洩が濃厚であること、さらにここまでの経緯全てをつまびらかに説明した。F主任に疑いがかけられているということを除いて…だが。
この沈黙を破って「自分がやりました」と申告する者はいない。仕方がないので「全員の携帯をチェックさせてくれ…」と告げると、全員があっさり協力に合意した。
もちろん、設定を漏洩できる人間が限られているということはここにいる全員が分かっているわけで、この中の誰かが犯人であり、少なくともこの時点では全員に疑いの目が向けられているということをこの部屋にいるみんなが悟ったはずである。一気に空気が重くなったが、それぞれが覚悟を決めた顔つきになったように感じた。
4人のうちF主任ともう一人は、携帯をロッカーにしまってあるということだったので、俺はそれを取りに行くよう指示を出した。
再び全員が揃ったところで、俺は念を押す。
「全員携帯を机の上に置いて、目を閉じて下を向いてくれ。最後にもう一度だけ言っておく。今回の設定漏洩の件に関わっている者がいたらここで手を挙げてくれ。もし犯人が明らかになった後で謝罪されても、内々に処理することはできない。刑事事件として取り上げるしかなくなる。最後のチャンスでもありお願いでもある。今から十を数えるうちに手を挙げてくれないか…」
全員が目を瞑ってからカウントを始める。
「10、9、8…」
俺の視線はF主任に向いている。手を挙げるのだろうか…
「3、2、1…。よし、目を開けてくれ」
どの手も挙がることはなかった。
俺が全員にメール画面を開くよう指示したちょうどその時、店長が慌ててミーティングルームに駆け込んできた。全員にそのまま待機するよう伝えて部屋を出ると、ギョロ目男がコインを流したので退店するかもしれないとのこと。すぐに事務所に戻ってモニターで確認すると、カメラは景品カウンターに向かう男の姿を捉えている。
すかさず裏口近くに店長を配置して指示を出す。
「時間がない。まずは奴の背中越しから名前を呼んで振り向かせろ。そして、F主任がどうしてもお話があるからと伝え、客人を迎えるように親切丁寧に事務所に誘い込め!」
店を出た男に向かって歩き出す店長の後ろ姿を、俺はじっと見守っていた。店長はゆっくりと奴の背後に回り込み、一歩ずつ間合いを詰めていく。そして男のすぐ背後につけると、
「すみません、阿久津さん!」
優しい口調でそう呼び止めた。男は何のためらいもなく返事をしているように見える。
(つづく)
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