犯人特定作戦の決行当日、ついに設定漏洩の犯人がみつかる!? そこには動かぬ証拠が映し出されていた

シリーズ名
現役ホールマネージャーだけど、なんか聞きたいことある? (毎週日曜日更新)
話数
第62回
著者
アタマキタ
苦楽をともにしてきたメンバーを疑うのは決して気分の良いものではない。F主任は地味な性格ながらも働きぶりは他の社員に引けを取らなかったし、しかも子育ての負担の大きいシングルマザーという立場でそこまで頑張ってきただけになおさらその想いが強くなる。正直、できることなら「なかったこと」にしてしまいたい。

だが…そのような甘い考えでは同じことが繰り返されてしまうだろう。設定を漏洩しても許されるなどという誤ったメッセージを出せば他のスタッフに対して後々悪い影響が出てくるはずだし、もし同じようなことが起こった時にそこで違った処分をするのもおかしな話となる。そして何よりも、公平性を揺るがせてしまったお客様に対しても申し訳が立たない。

どれほど大切にしている部下であろうが、本人にどのような理由があろうが、店の金に手をつける人間がいるということは、会社でゴト師を飼っているようなもの。数日に渡って店長と二人で話し合いを重ねたが、やはりそういった本質を見て今回の問題に対処していくことに決めた。そして、二度とこのような問題が起こらない体制にしていかなければならないという思いも強くしていく。



翌日にF主任の出勤日を控え、心は重いままだったが、犯人を特定するための作業に取りかかる。通常の流れでパチスロの設定を済ませ、主任たちが帰ったところで裏帳簿(=ダミー)の作成を進めていく。

主任たちが記入した設定表を広げると、全12台に設定6が投入されていた。そこで未記入の設定表を出力し、その12台すべてに、この裏帳簿には「2」と書き込み、それ以外の適当なところに「6」と書き入れた。

こうすることで、設定調整の結果を残す(ダミーの)帳票は内容がデタラメなものになった。F主任が設定6の台番を仲間に伝えれば設定1を打たされることになる。

仮に朝、F主任が設定キーを入れて設定6の台の確認作業を行なえばすべてが水の泡で、自分が疑われていると気づくかもしれない。しかし朝イチに設定確認をする理由はないし、また防犯カメラも作動しているため、そこまではやらないと判断した。あとは、打ち子のギョロ目、そしてまだ見ぬ打ち子どもがこのエサに引っかかればすべてが明白となる。


「とんだ勘違いであれば良いのだが…」

準備を整えて店を閉めると、明日と向き合うのが怖くなってきた。まだ淡い希望を持っていた部分があったのだが、現実はそんなに甘いものではないはずだ。



そして迎える運命の日。俺は店長と「いつもより1時間ほど早めに出勤しよう」と打ち合わせていたので、昼過ぎには起き、すぐに出かける準備をした。しかし店長はさらに早く出勤したようで、ホールの様子を見てすぐに電話をかけてきた。

「おはようございます。いまもう店にいるのですが…やはり、クロのようです」

「…。そうか」

細かい話はホールで聞くと伝えて電話を切り、足早に家を出る。


道中、さまざまな想いが巡ってくる。ここまで着実に仕事をこなしてきた彼女を不幸にしたくはないという気持ち、そして彼女がこれまで頑張ってきた姿が次々と浮かんでくるのだ…。

しかしこの期に及んでそんな事を考えている場合ではないのだろう。キッチリと片付けて前に進まなければならない。事務所の扉を開ける前に両手で自分の顔をパンパンと叩き、気持ちを切り替えるようにして中に入った。


視線の先には背中を向けた店長がいる。じっと防犯カメラのモニターを見つめていたのだが、俺の気配に気付いてこちらを振り返り、あいさつを交わす。そして沈痛な面持ちのまま出勤してから今まで確認したことを俺に説明してくれた。

その説明を聞きながらモニターをチェックすると、例のギョロ目がジャグラーを打っていた。この段階で1500枚程度出していたのだが、その台は、ダミーの帳簿に「6」という数字が書き込まれたものである。実際は設定1なのだが、なんとかヒキだけで出しているということになる。

店長によると、ギョロ目は10時30分くらいに来店して打ち始めたとのこと。それ以外の台についてはお客様が入れ替わっているようで、おかしな様子は見られないとのこと。

俺は説明を聞き終えるや否やデータを照合してみたのだが、このギョロ目の台だけが異様に打ち込みが入っている。しかも、今は出ているが、やはり低設定だからだろう、3万円近く使ってやっと喰いついたという履歴である。トータルの差玉では店はギリギリ赤字ではなかった。


俺は店長にあるものを持ってくるように指示した。それは、昨晩、設定表を管理している金庫の上に仕掛けておいたのだが、ハンディカムタイプの小型カメラだ。もし彼女が設定を漏洩しているのであれば、必ずこの設定表を見るはずだし、何らかの手段でその内容をあの男に伝えるに違いない。そしてその映像が残っているはずだ。

F主任の出勤時間にあわせて映像を確認していくと、8時30分、部屋に明かりが灯った。そしてつり銭用の現金と両替機の鍵一式を金庫から出す彼女の姿が映し出される。しかしそれだけで、設定表に手を付ける様子はなく、まったく問題のない動きだ。そしてほどなく部屋の電気が消え、再び真っ暗になる。


このまま何もなければ彼女への嫌疑は晴れるのだが…。そう思いながら録画された映像を早送りしていると、再び映像がパッと明るくなった。俺はカメラの早送りを止め、時間を確認してみた。

「9時50分か…」

この時間はホールコンピューターの手動クリアのために事務所に上がってくる必要があるので、ここで戻ってきても不思議はない。しかし…その後の映像には動かぬ証拠が収められていた。

金庫を開ける用事はないはずなのだが、再び主任はそこに手をかけていく。そして設定表を取り出し、おもむろに帳票をめくり始める。社員はホール業務時のメモ用として小さな手帳を携帯しているのだが、そこへ台番号をメモしている様子がはっきりと映しだされている。店長と顔を見合わせると、お互い無言で頷いた。


しかしながらここからが肝心だ。この段階では、F主任が設定表を見たということ、そしてそれをメモしたという事実があるだけ。ギョロ目との繋がりについて裏は取れておらず、設定漏洩については何も確定していない。この状態でこの映像を突きつけても、下手をすれば言い逃れされる可能性もある。

どうすればあのギョロ目を一緒に片付けられるだろう? しばし考えたのち、危険かもしれないが、俺はとある作戦に打って出ることにした。
(つづく)



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