設定漏洩の犯人は2人の主任のどちらかに絞られた…あとは犯人を特定するだけだが……

シリーズ名
現役ホールマネージャーだけど、なんか聞きたいことある? (毎週日曜日更新)
話数
第61回
著者
アタマキタ
同じ店で働くスタッフを不信の目などで見たくはないが、そんなことよりも、お客様に迷惑をかけるわけにはいかない。ここは情を捨て、割り切って疑惑を晴らしていかなければならないだろう。そこで店長に今回の懸念をすべて話し、彼の協力を得ることで犯人の特定作業に進むことにした。

まず、疑惑の男性客(嫌悪感を覚えるくらいの視線を俺に浴びせた男だが、これからは『ギョロ目男』と呼ぶ)が来店した日の役職者のシフトを洗い出す。すると、漏洩の可能性があるのは2人に絞られた。


一人目はA主任。地元の人間で20代後半の男性。明るく頑張り屋でムードメーカーでもある。

パチンコパチスロが大好きで、働く前はもともとこのホールのお客様だった。お店の雰囲気が気に入って入社を決めたとのことだったが、メキメキと力をつけて主任にまでのし上がっている。多少やんちゃなところはあるものの、しっかりとスタッフ間のコミュニケーションは取れており、お客様にも人気がある好青年だ。


二人目はF主任で女性。こちらも住まいは地元だが、現在は離婚してシングルマザーとなっており実家から通っている。

仕事ぶりは極めて真面目で安定性がある。そういう意味では地味な印象になってしまうが、俺としては自分の立ち位置を理解して仕事に向き合っているという評価。一人息子のために頑張って働いているというのがしみじみと伝わってくる。

小耳に挟んだところでは、これまで数人のスタッフと関係があったという話だが、現状一人身なわけだし、トラブルが起こらない限り恋愛は自由だろう。


ということで、設定漏洩の可能性があるのはこの2人だけなのだが、両者を比べるとA主任の方が分が悪くなってしまう。

A主任は誰にも受けが良い好青年…ではあるが、穿った見方をした場合には、その良さは"軽さ"と紙一重になってしまうのかもしれない。しかしそう思いたくもないので、その疑惑を晴らすべく、しっかりと調べを進めていく決心をした。

まずシフトだが、A主任とF主任が同日に出勤する日は作らないようにしておいた。こうすることで、設定漏洩を確認できた場合にどちらがやったかが明確になるはずだ。


そんな中で迎えたある日。A主任は遅番勤務、F主任は公休日。言うまでもないがターゲットはA主任だ。彼には、ジャグラーに数台の設定6を入れるように指示を出してある。

設定を打ち終えて事務所に戻ってきた彼は満面の笑みを浮かべていた。まるで自分が打ちにいくかのような無邪気さで、

「明日はジャグラーに6が多いっすね! 遅番が盛り上がりそうで超楽しみっす!!」

と言いながら事務所を後にした。

A主任がどのような反応をするんだろう、我々はどんな顔をしていれば良いのか…。そんな戸惑いから極度の緊張状態にあった店長と俺は、この言葉を聞いて拍子抜けしてしまった。


早々に主任だけを帰すと、店長と俺とで裏設定表の作成にとりかかる。

裏設定表というのは、さきほどA主任に担当してもらったものではなく、最終的な設定、つまりは本来の設定表である。犯人を見つけ出すためとはいえ、これ以上の設定漏洩は防がなければならない。漏洩の可能性がある人物が設定を知っている状態で営業するわけにはいかないのだ。

俺はA主任が設定6に打ちかえた台をすべて設定2に書き換え、別の台に設定6を入れた裏設定表を作り、店長に託した。


「奴がやっていなければ良いですけどね…」

設定を打ちかえた店長が事務所に戻ると、ぽつりとつぶやいた。家路へと向かう足取りはいつにも増して重いものとなった。



翌日の夕方。俺はホールに着くと、事務所には向かわず真っ先に店内へと進んだ。

「悪いことが起きていなければ良いのだが…」

犯人を特定したいのだが誰も犯人であって欲しくない。しかし、設定漏洩という裏切りに対する悲しみの感情は、怒りを激しく燃焼させるに十分な燃料でもある。俺は覚悟を決めてジャグラーの島に足を踏み入れた。


A主任に打たせた設定6の台番号は携帯にメモをしてある。画面でその数字を確認しつつも打っているお客さんの顔と出玉状況を一人一人をチェックしていく。

全台を見終えたところで前を向くと、そこには険しい顔の店長が立っていた。店長も既にチェックを終え、全てを理解したのだろう…。黙ったまま2人で事務所へと歩いていく。


俺は事務所へと入ると、ゆっくりと鍵を閉めた。

「残念だが…F主任の可能性が高いな」

「…」

店長は複雑な顔つきで、心の中にある言葉を口に出してよいものか迷っているのかもしれない。しかししばらく無言が続いた後、、ついに店長は絞り出すように言った。

「そうですね。やるべきことを淡々とやりましょう。どうあれ、許せない行為には違いありません…」

俺は散々裏切りを見てきたが、こればっかりは何度経験しても慣れることではなく、極めて辛いことである。店長にとってはこれは大きな試練だったに違いない。しかし、皮肉なことではあるが、店長はこのことできっと成長したはずだ。


俺はゆっくりと頷き、店長に告げる。

「次回のF主任の出勤は3日後の早番…だな。ここで終わらせよう」
(つづく)



質問を送る