ジャグラーの設定6が入った日にピンポイントで来る男。彼の正体は一体何者なのか!?

シリーズ名
現役ホールマネージャーだけど、なんか聞きたいことある? (毎週日曜日更新)
話数
第60回
著者
アタマキタ
時刻は15時をちょっと過ぎたあたり。一般的な勤め人と比べればかなり遅いだろうが、この時間帯が俺のメインの出勤タイムとなる。ま、朝方まで仕事をすると思うと若干憂鬱になることもあるので、そこは考えないのが長く続けていく秘訣なのかもしれないな。

ちなみにこの日は何もない平日、かつ前日が強めのイベントだったため、稼働が鈍る条件は揃っている。そのため、普段であればホール裏側の通用口から直接事務所に向かうのだが、稼働の落ち込みの程度を自分の眼で確かめようと、ホール内をグルっと見てから店内を抜けて事務所へ入ることにした。


まずはパチンコの島を歩く。常連さんの顔ぶれが多く客付きはまあまあといったところ。翌日に稼働がこれぐらい残るのであればイベントでしっかり赤字を打った甲斐もあるというもの。若干の安堵で心なしか身体も軽くなった気がした。

テキパキと仕事をこなすスタッフとすれ違いざまに小さく会釈しあい、スロットコーナーに向かう。まずジャグラーコーナーに進むと、常連さんというわけではないのだが、前日打っていたお客様の顔がちらほら。こちらもまずまずといったところだろう。


イベント日の翌日というのはどうしても「ホールは出さない」という顧客心理が働く。もちろん赤字を垂れ流し続けるわけにはいかないので必ず調整局面というのはあるし、そういった部分は否定しない。しかし、そもそもイベントというのは出すのが目的なのではなくその後の集客に繋げるためのものであるはず。つまり、今日に繋げなければ何のためのイベントか分からなくなってしまう。

そこで俺は、イベントの翌日にも必ず高設定を使うことにしている。特に前日に大きく勝っている台は敬遠される傾向にあることから、2日〜1週間程度、同一台に高設定を放り込みっぱなしということも意識的にやってきた。その効果がこの日の稼働に現れているのだとすれば、これは大きな収穫である。


軽くなった足取りでバジリスクIIのコーナーへ向かおう…としたのだが、島の端をゆっくり歩いていた俺に、軽く嫌悪感を覚えるくらいの強い視線が向けられているのに気付いた。ちなみに、俺は昔から視力が抜群に良い。今でもなお両目ともに2.0という結果が出るくらいなので、実質的に3.0くらいあるんじゃないか? と思っている。

ま、それは冗談だが、その視線の先には30代後半と思しき男性がおり、俺の様子を窺っているように感じた。職業柄というか職業病なのかもしれないし、この感覚を論理的に説明できるわけではないのだが、この男に対して瞬間的に強烈な違和感を覚えた。もちろん俺のことをじっと見ていたからといって誰でも彼でも疑うというわけではない。誤解を招きかねないのは承知だが、これまでの経験から、この男に対して何か引っかかる部分があったのだ。


俺は視線を逸らさずにこの男の方にゆっくり進むと、一度目線を外したその男は、また一瞬だけこちらを見た。そしてその後は打っている台をじっと見つめ黙々と打っている。これまでの経験から言えば、コインセレクターでのクレジット上げを狙ったゴト師か、コインの持ち込みなどをやるゴト師はこういう挙動をとりやすい。

俺はこの男性の視界に入る位置で立ち止まり、またこちらの様子を窺ってくるのではないかと待っていたが、今度は逆に不自然なくらい台から視線を外さない。黙々とジャグラーを打ち続けている。スロットが好きで台に集中しているのであればこれはまったく不自然ではないのだが…。


ここでひとまず事務所に入り、この男性が打っているジャグラーのデータを確認してみることにした。午後3時半の段階で投入枚数は約10000枚。店側の赤差玉は800枚程度で出玉率は108%。設定は6だった。

最初にも書いたが、イベント翌日に高設定を使うことをモットーにしているため、前日の据え置きを狙ってきたと思えば設定6に座っていても不思議はないし、データ的に特別怪しい点もない。強いて挙げるとすれば投入枚数が多めなことぐらいだが、やはり違和感は拭えなかった。あの視線の中に見え隠れしていたものは普通の感覚ではないように思える。


さらに詳しく履歴情報を見ていくと新たな情報も見えてきた。この台の稼働開始は10時10分で、すぐに大当たりして2連チャンしている。しかしその後、時刻で言うと10時半頃から11時くらいまで稼働が止まっているのだ。

早めの食事休憩という可能性もあるが、11時から稼働を再開し、かつ売上が上がっていたためその可能性は消えたと判断。持ちコインが残っているはずなのでここで売上が上がることはないはずだ。

「ここで1回お客が替わっているということか…」

念のため録画データを再生してみたところ、10時10分に座っているのはやはり例の男性とは別の常連のお客様だった。そしてデータ通り2連し、即ヤメしている。何か用事でもあったのかもしれない。

しばらく時間を早送りして見ていると、11時頃に例の男性がやって来た。座る時に一瞬周りキョロキョロしていたが、これは特におかしい行動でもないだろう。それに連チャン中のジャグラーだし、ヤメられたゲーム数も浅いとなると、その是非はともかくとして、台選びの根拠としても疑うポイントはない。その後もしばらく録画を見ていたのが、おかしな様子は見受けられない。


ただ、1点だけ気になる部分もある。データで履歴を追っかけてみると、次の当たりは825回転ハマってのREG。投資は25000円。次もハマって、539回転でBIG。

このような履歴は良くあるし、何もおかしなところはないと言われればその通りだろう。しかし設定判別ができるわけでもなく、のっけから25000円を投資し、さらにREG分をノマせて追加で12000円も投資できるというのはなかなかのことである。よっぽど投資しても良い理由がそこにあるはず…。


俺はこの段階で設定漏洩を疑った。しかしこれは非常にデリケートな問題で、対処を誤ってはいけない。

当たり前だが、役職者全員を集めて、「設定を漏らしてるのはどいつだ!」と言ったところで名乗り出るわけがない。また、犯人が発覚を恐れてそこで設定漏洩をヤメたからといって何の解決にもならない。不正の芽を残しておくわけにはいかないのだ。

そこでまず、設定管理に直接関わっていない店長に話を聞いてみたのだが、この男性客は最近店に来だしたようで、早い時間からジャグラーを打つことが多いということだった。しかし俺が懸念するようなものはないということだったので、その日はそのまま営業を終えることとなった。

「俺の勘違いだったのか…」

しかし朝イチから店にいることの多い店長には、しばらくあの男性客をマークしておくようにと伝えておいた。



それから数日後。俺が出勤するとすぐに店長がやって来る。

「今日は例の男性が来ています。来店されたのは11時頃で、コインはあまり出ていませんが…打っているの設定6です」

ジャグラーに設定6を使ったのはあのイベントの翌日以来のこと。つまりあの男は、設定6が入った日にピンポイントでやってきたということになる。もちろん、たまたまという可能性はあるものの、怪しいという気持ちの方が勝っていく。


俺はまずこの男の来店時からの動きを外部カメラで追ってみることにした。まずカメラが捉えたのは、自転車置き場にママチャリを停める姿。ここから、近所の人間なのかも? と予想を立てる。そして店内に入ると、ジャグラーコーナーをゆっくりと見て回った。何台かデータカウンターをいじった後、最終的にいま打っている台、すなわち設定6のジャグラーへと着席。

これは一見すると普通の台選びだが、カメラで確認する限りこの男は前日のデータなどは見ておらず、目線の先にあるのはナンバーランプに割り当てられた台番だ。そしてこの台に座る時もそうだった。


表面上は些細な違いではあるが、これは決定的な違いである。俺はこの時点でこの男に設定を流している奴がいると確信。そしてこの問題を解決するために、社内に罠をはっていったのである。



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