「ショップ」に爆弾が投げ込まれ現場は騒然…さらに追い打ちを掛けるある出来事が!?(中編)

シリーズ名
現役ホールマネージャーだけど、なんか聞きたいことある? (毎週日曜日更新)
話数
第36回
著者
アタマキタ
車道の真ん中に進み出て仁王立ちしたスーツの男は、辺りをグルリと見回した。すると、その男に強烈な磁力があるかの如く数人の男たちが一挙に駆け集まっていく。下されるはずの指令を緊張した面持ちで待っているに違いない。

さすがにこの騒ぎだ。この段階で野次馬はかなりの数に膨らんでいたが、警察官の迅速かつ適切な対応のおかげで現場は整然と制御されている。もしこれが現在のニューヨークあたりで起こった騒ぎであれば、爆弾物に対するリアリティもあるだろうから、これほどの物見遊山が集まることはないだろうが…。


スーツ男はしばらく車道の真ん中で腕組みをしたまま取るべき対応について思案しているようだったが、ある瞬間、何かを覚悟したように前を向く。すると地響きのような大声で指示を飛ばした。

「地下鉄出入り口封鎖! 幹線道路1キロ四方を全面封鎖! 爆発物処理班の到着時刻を報告しろ!」

その言葉で空気が一段と重くなり、一気に磁場が逆転。周りを取り囲んでいた男たちは、その命令の圧力に押し出されるように四方に散っていった。道路中央のスーツ男は、不動のまま鬼の形相で虚空を睨んでいる。

鳴り止まないサイレン音と野次馬を制止する警察官のマイクの声、そしてパトカーに断続的に照射された建物の赤い陰影が相まって否応なしに緊張感は高まっていく。1時間前には想像もつかなかった大スペクタクルが目の前で繰り広げられている。


しかしそんな緊張と興奮に支配される雰囲気の中、俺の頭にはちょっとした引っ掛かりが"しこり"のように消えずに残っている。

「それにしても誰が何の目的でこんなことを…。ホールに対する怨み?」

もしホールに対して不満があったとしても、もちろんそういう者は一定数いるに違いないが、何にせよショップを狙う理由にはならないはずだ。直接ホールを狙うなり、その関係者に的を絞るのではないだろうか。それに、ショップを襲撃しようと思うのであれば、その場で店員を脅して現金を出させるのが普通だろう。となると通り魔的な犯罪なのか…。


「もしかしたら…」

俺はあることを確認しようと、店の裏側に避難していたショップ店員の元に駆け寄った。女性はすっかり衰弱しきっており、虚ろな眼差しで丸椅子に腰かけている。

まあ無理もない。目の前に爆弾を押し込まれたとなれば、よっぽど太い人間か相当の呑気者でもなければ怯むに違いない。しかもこれで爆発でも起きようものなら、この先受ける精神的なダメージは計り知れないだろう。本来であれば、テレビでも見ながら平穏に仕事をしているはずだったのに…。

そう気の毒に思いつつも、俺は彼女の横に座って気になっていたことを聞いてみることにした。

「爆弾を置いていった男ってさ、その後にどっちに逃げて行ったかって…覚えてる?」

その部分について強烈な記憶が残っているのか、女性店員は迷いなく駅側を差し示す。

「あっちあっち。駅前に停めてた自転車に乗って逃げてったわよ」

なぜそんなことを聞くのかと不思議そうな顔で俺に視線を合わせた。そこで俺はもう一つ質問を投げかける。

「じゃあ…その男が爆弾を押しこんだすぐ後にショップの外に出たってことだよね?」

「そうよ。本当に爆発したら怖いと思って…。だからそのまま店員さんに話しに行ったのよ」

「そうか。今日は本当に災難だったよな…」


俺がショップ店員から離れて店の表側へ戻ると、ちょうど一台のトラックがやってきた。その車がショップ近くに停車するなり中から数人の男が飛び出し、すぐさまショップに向かっていく。そしてあっという間に爆発物らしきものが運び出され、車の中へと搬入されていった。多分あれが爆発物処理班なのだろう。

恐らくこれで最悪の事態は免れたに違いない。そう思うとホッと胸を撫で下ろさずにはいられなかった。しかしそんな安堵も束の間、相も変わらず仁王立ちのスーツ男が、俺に向かってこっちへ来いと手で合図している。まるで犬や猫を呼ぶような感じで気に食わないが、事態が事態だけにそうも言ってはいられない。

一刻も早くこの事態を収める役に立てればという思いで男のところに素早く駆け寄ってみたのだが、なんのことはない、「ショップ店員を連れ来い」と凄まれたに過ぎなかった。それでもとりあえずその要請に従い、すぐに店の裏側で待機しているショップ店員を呼び戻し、この男のところまで歩いていったのである。


スーツ男の前に2人が揃うと、男は無言で通りを渡り、ショップの方向に進んでいった。我々も無言でそれに続く。

ショップに着くと、男は店員に鍵を開けるように指示。そして店に入るなり録画しているビデオ映像を再生をするようにと命令する。店員は対応に苦慮していたが、ちょうどその時、このショップの責任者が現れたため、無事に録画ビデオが再生された。


事件のあった時間まで映像を遡ると、そこには犯人の姿が鮮明に映し出されている。襲撃犯は爆弾のようなものを手に持ち、そしてそれを窓口に押し込みながら何かを叫んでいる様子が窺える。そして男がその場を離れた直後、店員が後を追うように店外に飛び出した。

ここまでは女性店員の言った通りの映像が再生されている。しかし俺が気になっているのはこの後だ。もしも俺の"ひっかかり"が杞憂でないならば、必ず映像の中に『あるシーン』が残っているに違いない。

俺は誰も居なくなったショップの映像を目を凝らして見続けた。
(つづく)



質問を送る