店長が横領の罪を被せられた!? パチンコホールの裏事情(その2)

シリーズ名
現役ホールマネージャーだけど、なんか聞きたいことある? (毎週日曜日更新)
話数
第31回
著者
アタマキタ
前回の企画コラムは単発ということだったので無理矢理まとめてみたが、やはり中途半端になってしまった。せっかくだから続きを書いていこうと思う。



----------


俺は窮地に立たされていた。お客様のために良かれと思い、かつ会社に報告を上げていたイベントが、『150万円の横領』という考えもしなかったものに姿を変え、その責任を取らされようとしている。いつもと変わらない一日のはずだったのに、まさかこんなことになろうとは…。

景品データの痕跡から不正を責め立てる社長に、俺は慣例通りのことをしただけだと弁解したのだが、社長は一切聞く耳を持たない。会社にも報告を上げていると訴えても「俺は聞いていない」の一点張り。自分の側に落ち度があれば多少引け目もあろうが、今回の件についてはどうしても納得ができずしばらく粘ってみたのだが、結局、事実関係の確認をするという理由から自宅謹慎という処分を受け入れざるをえなくなってしまった。


それにしても、なぜこんなことが2週間以上も経ってからほじくりかえされたのだろうか? そして通常であれば社長がチェックしない景品データが、なぜ社長の手に渡ったのだろう? 家に帰る道すがら、俺は内通者の存在を疑い始める。そうでなければこんな展開は考えられない。

そこで、内情を探ろうと各店長に連絡を入れてみた。しかし誰一人として電話に出ないばかりか、折り返しすらもない。

「既に箝口令が敷かれているのかもしれないな…」

自分が思っている以上に事態は深刻のようである。


内部との連絡を遮断された以上、もう敵方の動きを知る術もないな…と絶望的な気持ちになると同時に、この現実を前にして、相手は本気で俺を追い落とそうとしているんだとはっきりと認識した。

そんな時、見慣れない番号からの着信が。

「もしもし…」

そう話す声の主は、当時俺が一番可愛がっていた店長だった。

「すみません、折り返せなくて…。部長から箝口令が出されてまして、アタマキタさんと連絡を取ったことがバレると会社をクビになると言われています…」

やはりそうだったか…。

「今日の終礼で部長がみんなにこう言ったんです。アタマキタ本部長は会社の服務規定に重大な違反をしている疑いがあり、自宅謹慎させている。その調べがつくまでは、彼に連絡をしても、また彼から連絡を受けても話をしてはならない」

敵は用意周到に攻めてきている。やはりもう為す術もないか…。


しかし、裏で糸を引いているのが誰なのかはどうしても知りたい。誰が俺を追い落とそうとしているのか、誰が俺を裏切ったのか。そこで俺は、例のイベントについてどういう経路で社長に伝わったのか知っているか聞いてみた。

「ちょっとそれについては分かりませんが…ただ最近、部長とS主任が随分と遅くまで残っているようです」

「部長とS主任か…」

この2人の名前を聞いて、思わずため息が出てしまった。


部長は主に経理を担当しており、実際のホール営業には関与していない。自分から見ればパチンコのパの字も知らないような人間であったし、実際、社長の親戚筋にあたるということからしょうがなく籍を置いてもらっているというのが社内の共通認識となっており、大した仕事もせずに…と社員からの評判もすこぶる悪かった。

もう一人のS主任というのは入社10年超えのベテランである。ただしベテランとはいっても信頼が厚いわけではなく、会社に対しての不平不満があまりに多いため煙たがられていた。もちろん問題意識を持つことは良いことだろうが、S主任が繰り出すクレームの多くは本人の甘い考えに起因しているというのが実際だった。そこで、このままではいけないとチェーン店から人事異動させ、2か月ほど前から自分の下で働き始めている。

基本的にこういうやつらがタッグを組むとロクなことにならない。他にやるべきことがあるだろうに、なんでそんなところにエネルギーを使うのかと呆れてしまうよ。おおよそ、俺が悪さをしているとチクリを入れ、ご苦労なことにこの2週間遅くまで残って裏取りしていたのだろう。その涙ぐましい努力が今日の社長の行動に結実したわけだ。


「それにしても、一体何のためにこんなことを? 部長と俺に利害関係はないはずだが…」

どうしてもそれが理解ができなかった。そこで俺はすぐに家には帰らず、店舗の近くの喫茶店で部長の退社時間を狙って待機していた。

しばらくすると、判で押したように17時ジャストに部長が店の裏口から出てくる。俺は後をつけ、店舗が見えなくなるくらい離れた所で部長に声をかけた。真意を聞きださなければ気持ちが収まらない。


俺は穏やかに話しかけたが、部長はかなり驚いた表情で、かすかな怯えも浮かんでいる。そして初めは警戒して何も知らないと言い張っていたが、ついには口を開いていく。

「俺は社長から調べてくれと言われたことをやっただけだよ! 俺が何かしたわけじゃないんだよ!」

さらに問い詰めると洗いざらい話してくれた。

「元旦に、S主任が『アタマキタ本部長が不正をしいてるから社長に会わせてくれ』と言ってきたんだよ。もともとS主任はアタマキタ本部長のことが嫌いだったみたいだからな。ずっとアラ探しをしてたんじゃないか?」

S主任が転勤して以来、彼に厳しく当たってきたのは確かだが、個人間の軋轢などどうでもよいし、S主任が俺のことをどう思おうが関係ない。そしてそのことで上層部にありもしないことを吹聴しようが、勝手にすればよいと思った。その特技は今に始まったことではないのだ。

ただ、どうしても納得がいかなかったのは、例のイベントの処理はこの部長に話を通しているという事実があったからだ。つまり、調べるまでもなく、部長は今回の件が不正ではないことは分かっているはずである。そこを問い詰めると、驚きの答えが返ってきた。

「俺は…昔からホールの責任者をやりたかったんだよ。でもあんたが店を見ているから責任者になれなかった。あんたはまだまだ若いから、ここを辞めてどこに行っても通用するだろ? でも俺はもう56で定年も近いし、そういうわけにはいかないんだよ…ここで生きていくしかないんだよ」

そして哀願するようにこう付け加えるのである。

「社長がさ、もしあんたが辞めたら、俺に本部長をやらせてくれるって言うんだよ。頼むからこのまま退職してくれないか」

あまりの理屈に、ブチ切れるどころか笑ってしまった。お前はジャギかと。そもそもパチンコの営業に興味あんのかよ? と。

「俺、こんな奴に足元すくわれたのか…」

世の中にこんな人間がいるものかと唖然としたが、不安な顔つきで俺の出方を窺っている部長を見て憐れに思えてきた。

「わかったよ。辞めてやるよ。でもな、責任者になるのは良いが、俺が作った店の数字を下げたら、お客様もスタッフも守れねぇからな」

そう言って俺はその場を立ち去り、覚悟を固めたのである。


しかしこれでは話は終わらず、翌日また社長から呼び出しが掛かった。俺はそこで初めて、この事件を利用した社長の本心を見ることになったのだ。
(つづく)



質問を送る