ゴト師との戦いで決定的な証拠を掴んだが

シリーズ名
現役ホールマネージャーだけど、なんか聞きたいことある? (毎週日曜日更新)
話数
第6回
著者
アタマキタ
ホールを出てから戻るまで実際には20分程度だったと思うが、かなり時間が経過しているように感じた。この重苦しい感覚こそが状況を楽観視していないことの証左であったろう。右手に喫茶店のトイレで回収した体感器を握りしめていたにも関わらず、だ。

確かにこれは決定的な証拠ではある。しかし自分は、これが即、問題を解決に導くという展望を抱けるほどには楽天家ではなかった。足早に事務所に向かいながら問題を整理し、どうやって解決すべきかに考えを巡らせるものの、その短い時間で妙案が浮かぶことはなかった…。


ゴト師は2人である。"小太り"は、体感器を体に仕込んで隣の席からレバーを操作することでレア役を直撃させていた『ネタ持ち』。そして「何も悪いことなんてしてませんけど?」と言わんばかりの軽装で大当たりを重ねていた打ち子の"タンクトップ"。この連携プレーによって6000枚というメダルが不正に引き出されている。

しかし当初は小太りの存在に気付いておらず、タンクトップのみをマークしていた。そのため、不正をしているという疑惑はあったもののその仕組みは不明であり、かつ仮にタンクトップを捕えてもネタは出てこないだろうということまで予想はしていた。

ただし、これまでの経験則はしきりにゴーサインを出している。そこで、『経験』というある意味脆弱な根拠の下、かなりの見切り発車で事態を強制的に前へ進めることにした。店舗の外側でタンクトップに声をかけ、そのまま会議室に引っ張って来たのだ。

そのうちタンクトップは諦めて落ちるのではないかとも思ったが、相手は動揺を見せないどころか自信に満ち溢れた様子。善意の第三者を装いながらも、不敵な笑みを浮かべてこちらを挑発してくる始末。会議室の空気は膠着状態に陥っていった…。


しかしそこへもたらされた、「タンクトップの隣の台が長時間空き台で放置されている」というアルバイトの報告が潮目を変えた。これも『経験』上での感覚でしかないが、すぐに隣の台が今回の件と強く関連していると疑った。

早速カメラで確認してみると、そこで打っていた「小太り」は、俺が現場でタンクトップをマークした途端に慌てて店外に出ていったのだ。これで確信を深めた俺は、小太りの来店からの動きをカメラで追うことで、こいつが体感器を使ってタンクトップの台を操作していたことを解明した。


あとは証拠さえ掴めば大方解決するだろうと、小太りが移動した経路をトレース…したのだが、何も見つけることはできなかった。

しかしすぐ目の前、いつも常連で賑わう喫茶店に飛び込んでみると、マスターによれば「小太りの男がトイレに駆け込みそのまま出ていった」という情報を得た。そこですぐさまトイレの中を物色すると、戸棚の中から体感器を見つけるに至ったのである。


…というのがここまでの流れ。

状況証拠は揃ったと言って良いだろうが、小太りにしろタンクトップにしろ、そして体感器にしろ、これらを結びつけるものは何ひとつない。しかしこの体感器で奴を崩していくしかないのだ。


俺は会議室の扉を開け、足を組んでデカい態度を崩さないタンクトップの前に体感器を放り投げた。そして奴の正面にドカっと腰を下ろして顔色の変化を窺うと、さすがに動揺が見える。

俺は間髪入れず激しい口調で怒鳴りつけた。ここでさらなる動揺を誘って一気に自白まで持っていくつもりだ。

「おい! 言われなくてもこれが何だか分かるよなぁ? 隣でネタを仕込んでた小太りから取り上げたものだよ。いまそいつも別室で『おしゃべりを楽しんでる』最中だ」

もちろん小太りを捕えてはいないが、小太りとタンクトップはあれから接触していないはずだ。仲間がこちらの手に落ちたとなればこいつの自白も早まるだろう。

「な? ネタが出て来た以上、お前らはもう言い逃れはできねえぞ、おい! テメェ! どうしてくれんだよ!」

自信満々にプレッシャーをかけたつもりだったが、逆に背筋が凍るような視線が返ってきた。先程一瞬だが見られた動揺が嘘のように消えているではないか。いま思えばそれは開き直りに過ぎないのかもしれないが、この姿に今度は自分の方が動揺してしまった。

『マズい…しくじったか!?』

この心の揺れが見透かされたのかもしれない。

「おい、お前は馬鹿か? 俺は一人で打ってたんだよ。何だよその小太りってのは? どこのどいつだよ! ここに連れて来いよ、その小太りって奴をよ!」

むこうもいつまでも拘束されていてはたまらないと、状況を打破しようとしているのだろう。

「ふざけんな! 俺はただ吉宗を打ってただけだろ? たまたま出たからってこんなナメたマネしやがって! 名誉棄損で訴えてやる。警察に連絡させろ、この野郎!」


外形的にはタンクトップの言い分が正しいだろう。状況証拠は掴んでいるが、奴が関わったという証拠は何一つ提示できていない。だからこそこの体感器一つ、勢いのみで切り崩すしかないと思ったのだが、奴もそれなりに場数を踏んでいるのか、一切ひるむ様子を見せなかった。

しかしこいつをここで放逐するわけにはいかない。状況証拠とはいえ確度の高い物証を押さえているのだ、引けるわけがない! そこで俺は固定電話をタンクトップの前に置き、言い放った。

「そんなに警察に行きたいなら自分で呼べや! ただしそのままブタ箱にブチ込んでやるからな!」

そう言ってタンクトップを睨み付けると、奴は電話に手を伸ばしはしなかったが、今にも飛びかかってきそうな剣幕で睨み返してきた。


そして再び会議室は沈黙に包まれる。この状況をどう打開すべきか?


俺は奴から視線をそらさずに頭をフル回転させ、一か八かの賭けに出る。

「お前がどう言おうがやったことは分かってるんだよ。もう観念しろや?」

基本的にこういうゴト師は組織化されており、数人で徒党を組んで動いているケースが多い。俺はそこを突くことにした。

「ただな、お前も立場があるだろう。体感器を取り上げられてな? その上、出した景品も取り上げられました…なんてことになったら仲間に対して格好がつかんわな。タダでは済まないんだろう?」

タンクトップは何か言おうとしたが、俺はそれを手で制し、机の上にA4用紙をスッと差し出した。

「お前にとって悪い話じゃない。取引をしよう。いいか、良く聞け。俺は今回のゴトのやり方を知りたいだけだ。詳しい手順をこの紙に書いて説明すること、そして今後この店にお前らの仲間が立ち入らないと約束するなら…この体感器、そして景品もお前に返してやろう」

机の上に叩きつけたボールペンの音が響き、そしてそこに沈黙が続く。経験上、この沈黙は長ければ長いほど、むこうが落ちる可能性は高くなっていく。


窓から差し込む西日がやたらと眩しかった。そのせいか、タンクトップは俺から目線を外して下を向く。

一体何を考えているのだろうか? このまま逃げ切れるとでも思っているのか? 俺はタンクトップをじっと見つめながら、ひたすら「落ちろ落ちろ」と心の中で叫び続けていた。


それにしても余りにも西日がきつい。ブラインドを下げようかと俺は窓際へ向かって歩き出した。

その瞬間だった。
(つづく)