ゴト師との戦いは目と鼻の先の珈琲屋で

シリーズ名
現役ホールマネージャーだけど、なんか聞きたいことある? (毎週日曜日更新)
話数
第5回
著者
アタマキタ
タンクトップは余裕の表情を浮かべ始めた。こいつが暴れ出す前にネタを突き止めなければこちらが痛い目を見ることになる。一転して自分たちの立場が悪くなったことで、事務所内の緊迫度は否応なしに高まっていった…。

そんな中で発生したアルバイトのカットインだったが、これが膠着状態を崩すきっかけになるかもしれない。少なくとも自分は、空き台に少量のコインが残されたまま放置されているということに大きな違和感を感じたし、調べてみる価値はあると思った。


すぐに事務所へ戻り、録画した映像を巻き戻してタンクトップの隣が空き台になった瞬間を探した。

すると、ほどなくして見るからに胡散臭い小太り体型の男が現れたのだが、その格好があまりに異様であった。というのも、真夏だというのに、季節感のまったくない長袖のジャンバーを着こんでいたからだ。冷房対策の可能性もあるが、そんな繊細さを持ち合わせていそうな風貌ではない。

そこからその小太りをマークしながら再生していくと、俺がタンクトップの後ろで床を蹴りつけるシーンが展開していく。続く映像では、俺が逆側に回り込もうと歩を進めていた。


…と、その時である。小太りは、俺の動きと反発しあうかのように慌てて席を離れ、反対側の出口から店を出ていったのである。

「こいつがネタ持ちだったか…」

俺の意識はタンクトップにのみ向けられていたため、隣にいた"いかにも"な小太り男をすっかり見逃していた。しかしこの風体と挙動を見ると、限りなくクロに近い。俺は確度を高めようと、さらに映像を巻き戻し、こいつらが入店する姿を探した。


モニターに正面入り口から入ってくるタンクトップが映し出される。奴は吉宗のシマを一度は通過したが、また戻って来て2台並びで空いていた右側の席、つまり疑惑の台に着席。すぐにサンドに現金を入れて打ち出すが、ここまで不審な動きはない。

そして間もなくその左側に小太りが座る。同じようにサンドに現金を投入した…のだが、タンクトップとは違い打とうとはせず、しきりに周囲を警戒している。


直後、小太りの右手が動いた。小太りの右側、つまりタンクトップの台のレバー付近に手を伸ばし…。

その動きはせいぜい5秒程度だが、その後は2人とも普通に打ち始めた。しかしどうにもその様子がおかしいのである。

小太りは右手を膝の上に置いたまま左手でコインを入れ、左手でレバーを叩き、左手でボタンを止める。そして隣のタンクトップは一見すると普通に遊技しているのだが、レバーを叩くタイミングとリールが始動するタイミングがズレていたのだ!

「あっ!!」

これがどういうことかというと、要は小太りがグルということである。通常であれば、ゴト行為を行なう本人が体感器を身に着け、ソレノイドから引っ張ってきた糸をレバーに引っ掛けることで特殊役を引き続けるのだが、この役を自分ではなく隣の小太りがやっていたというわけだ。

タンクトップは、その軽装を誇示することにより店側の油断を誘い、その間隙を突いて隣の小太りがゴトを発動させるというのがカラクリであろう。

しかし手口が掴めても問題は解決しない。これをタンクトップに認めさせなければ意味がないのだ。俺はここで早まってはいけないと思い、一連の動きを確認するためにモニターを見続けた。


すると、先ほど慌てて店を出ていったはずの小太りが店内に戻ってきた。その間3分程度だと思うが、恐らく一度店外に出て、ネタ(体感器)をどこかに隠してきたに違いない。

この時、俺は「それにしては戻りが早いな…」と感じた。普通の人にはイメージがないだろうが、この当時の体感器というものは、体中を配線が駆け巡っていて、それをテープなどで固定するというのが基本であった。

つまり、上着のポケットに収めるというような簡単なものではないため、それらを取り外すとなるとそれ相応のところに隠れて作業しなければならない。いくら真夏の暑い日とはいえ、外で服を脱いでそんなことをしていたら怪しいことこの上なしである。

仲間が車で待機していて、そこに隠れて着脱したのだろうか? そうなると困ったことになるが…。


監視映像は小太りが店を出た後に右側に向かっているところまで捕えていた。俺はモニターを離れ、出口付近に向かう。

この辺りは物陰も多いのだが人通りも多い。さすがにここで服を脱ぐのは不自然だろうし、この道幅で車が入ってくることも考えにくい…。


そう思った時に目と鼻の先にある喫茶店が目に入った。もしやと思い、コーヒー屋に突撃するなりマスターに尋ねてみる。

「すみません、マスター。20分くらい前に変な男が入って来なかったかな?」

ここは常連客のたまり場になっているのだが、マスター自身も自店の常連である。

「ああ…あの人、店長の知り合いなの? 入ってきたと思ったら何も言わずにトイレに入ってさ、出てきたと思ったらコーヒーも何も注文しないでそのまま出ていっちゃったんだよ」

マスターの話はまだ続いていたが、俺はすぐにトイレに向かった。


トイレには洋便器が一台。何の変哲もない普通のトイレだ。とりあえず便器の裏側や目につきにくい部分を中心に探してみたが、道具は見つけられなかった。

「既に仲間に持ち去られたか…」

がっくりと肩を落とし、この後どうしたものかと天を仰いだのだが…ちょうどその視線の先に戸棚のようなものがあった。少し背伸びをしないと届かない場所で、扉を開けるとトイレットペーパーのストックが放り込まれている。


手前側にしか視線は届かないので手で奥を探ってみると…

「!!!」

右手にネトッとした感触があった。

これを掴んで引っ張り出してみると、それはオムロン製のパッドと配線でグルグル巻きにされた体感器であった。


トイレを出るとマスターが不審そうにこちらを見ていたが、「また後で」と言ってそそくさと店を出る。

「店長もトイレ借りに来たの? コーヒー飲んでってよ!」

この時はマスターの冗談に付き合う余裕もなく、苦笑いをするのが精一杯だった。


これでネタは挙がった。タンクトップと小太り、二匹揃ってしっかり型にハメてやる!

俺は右手に体感器を掴み、ゴト師が待つ事務所へと足早に戻ったのである。
(つづく)