ゴト師との戦いで見当たらぬ体感器

シリーズ名
現役ホールマネージャーだけど、なんか聞きたいことある? (毎週日曜日更新)
話数
第3回
著者
アタマキタ
当時は吉宗全盛期。711枚のBIGが1G連するという強烈なスペックで、飛ぶ鳥を落とす勢いでホールとプレイヤーを席巻した。これは言わずもがな大都技研の代表作で、出世作でもある。

その頃の大都はまだマイナーメーカーだったこともあり、その人気を処理できるほどの生産ラインは確保していなかったのだろう。あまりの売れ行きに製造はまったく追いつかず、導入を希望するホールから嵐のようなクレームが殺到するほどであった。


しかしこれもまたパチスロの宿命というべきか、あまりに設置店が増えたこと、そして内部の構造に問題があったため、最終的にゴト師の格好の餌食となってしまったのだ。

しかもそのゴト行為は千差万別。一つ潰せばまた一つ…とまさにいたちごっこで、繰り返されるゴト対策に追われ続けた機械だったため、ホール管理者からは「ゴト師のデパート」などと揶揄されてもいた。

しかし当時を知っていれば分かると思うが、一般プレイヤーの支持は半端なかったため、機械を止めるなどという選択肢はなかったのだ。



この機械で一番最初に出てきたゴトは、JACゲーム中を狙ったもの。

BIG中のJACゲームやREG中は俵orリプレイ図柄が揃うのだが、これは左or右の2択となっており、正解した場合に俵揃いとなる。そして8連続で俵が入賞すると、その時点で711枚の1G連チャンが確定。しかしこれは1/2の8連続、つまり1/256ということで頻繁に起こるものではない。

ただ…この当時は、ある一定のタイミングでレバーオンできれば、出したい役を自在に成立させられるという機械があったのだ。特に吉宗のJACゲーム中は俵orリプレイの2つしかないため狙いやすかったのだろう(厳密に言えばハズレなどもあるのだが…)。


もちろん、メーカーだって馬鹿ではないわけだから、人間がタイミングを計って自由自在にフラグを操れる…なんていうレベルの機械を作るはずがない。これを実現するには、いわゆる"体感器"という機械を必要とするのだ。

体感器というのは元々はメトロノームから来ていて、設定したタイマー(間隔)に応じて信号を出したり振動させたりすることでタイミングを教えるものである。

…が、そのタイミングで人間がレバーを叩いたところでフラグは狙えない。アナログでは到底狙えないほどのタイミング、コンマ数秒のタイミングまで制御できて初めて、上記のゴトは成立するのである。


ではゴト師はどうしたか? 奴らはレバーに糸を結びつけ、それをソレノイドで制御することで、体感器のタイミングを正確にレバーに伝える術を発明(?)したのだ。

使う糸は手術用の透明のものなのだが、現在のようにネットが普及していない時代のことである。ゴト師たちはそんなものをどうやって入手したのかと想像すると、その努力に「仕事しろよお前ら」と思わず笑ってしまう。

しかししばらくすると、どのホールもボーナス中に店員が後ろに張り付くという極めてアナログな対応をすることで、JAC中の俵8連狙いは沈静化していった。

ちょっと前置きが長くなってしまったが、今回の話はこのようにゴト師とホールがせめぎ合っていた時代の話である。



さて、次にゴト師のトレンドとなっていったのが、通常時のレア役解除狙い。今度は松やチェリーの周期に合わせてレバーを体感器で動かすことにより、ボーナス解除を狙ったのだ。

もちろんそういった動きは店側も掴んでおり、当然のように警戒を高めていた。体感器を使うゴト師には特徴がある。まず、腕から糸を垂らすため、長袖の場合が多い。さらに体感器を体に仕込んでいるのを悟られないように割とゆったりとした服装になりやすい。


その日は真夏の太陽が照りつけるとても暑い日だった。俺は事務所でメーカーと新台購入の商談をしていたのだが、主任が慌てた様子で事務所に入ってくる。そして一目散にホールコンピューターに駆け寄っていった。

これは尋常ではないなと感じすぐに事情を聞いてみると、どうやら、吉宗コーナーに怪しい奴がいるということだった。そこで一緒にホールコンピューターの差玉を確認すると、すでに6000枚ほど出ている。ただし、吉宗の破壊力は尋常ではなく、かつ設定不問のところが大きいため、この程度の出玉は普通のことではある。


「打ってる客はどうなんだ?」と主任に聞いてみたのだが、彼は首をかしげるばかりで、何かを掴んでいるわけではないようである。

「先ほどから細かく連チャンさせているのですが…特に何かをやられている様子もないのです。実際、この格好ですし…」

ここでカメラをズームさせる。該当台をアップにして様子を見てみると、そこには30代前半くらいの男が映っていた。出で立ちはノースリーブのシャツに太ももまで見えるショートパンツ。ザ・夏スタイルで、一見すると体感器を仕込んでいるとは思えない。運良く連チャンしていると言われれば、そうだろうなと思ってしまう。

しかし、しばらくカメラを見ていた俺は、何となくその男の動きに違和感を覚えた。じっくり見ていると気付くのだが、何やら左側だけ気にしているのだ。


奴から見て左側はスタッフのメイン通路となっており、ここだけ見ていれば島に入ってくる人間をすべてチェックできる。そしてこの男は、ここにだけ極めて高い注意を払っている。

俺はすぐにホールへ降りて奴が気にしている左側の通路の真ん中で立った。俺の目線の先は奴の目元だが、7〜8メートルほど離れている位置からもはっきりと分かるくらい、ぴったりと奴と目が合った。すると奴はすぐに目線を逸らした…。


まぁこれは偏見というか職業病かもしれないが、その目線の奥に、俺が今まで見て来たゴト師たちと同等の警戒心が窺えた。勘と言われればそれまでだが、この時点で俺はこいつをゴト師と断定せざるをえない。

俺は一歩ずつ、ゆっくりと近づいていく。この時は獲物を狙うライオンのような形相だったかもしれない(苦笑)。もちろん向こうは俺の視線にもゆったりとした歩みにも気づいているだろうが、一切こちらを見ようとしない。気配を読み取っているという風情だ。


いよいよ奴の席の後ろに差しかかると、体を奴の方向に向ける。ちょうど真後ろに立っているような状態だ。

こちらを気にする素振りは見せない…ように振る舞ってはいたが、機械のプラスチック部分の反射する所を利用してこちらを見ていることに気付いた。


ここで俺は、席の真後ろで、革靴で床を思いっきり蹴りつける。自分の足に痺れがくるくらいの勢いで蹴りつけた。すると数人の客がこちらを振り向いたが、奴はこっちを見ようとしない。

俺はもと来た通路をゆっくりと戻る…とみせかけ、すかさず上半身をねじって奴のほうを見た。すると今度はしっかりと目が合った。すかさず奴は目を逸らしたが、これでますますこいつがゴト師だという確信を深めることとなった。


俺はそのままゆっくりと店の外まで歩き、どうしたものか考えていた。

奴がゴト師であるのは間違いないが、ネタ(体感器)を仕込んでいる様子がない。新型の電波ゴトだろうか?

しかしその時のホールのセキュリティ対策は最新のもので、電波ゴトにも対応できるようになっていた。それにボーナス履歴的にも1G連チャンはなく、ほとんどか100ゲーム以内の当たりである。となると、体感器を使ったレア役解除しか考えられないよな…。


対応に苦慮したところに主任が駆け寄ってきた。

「交換するようですが、どうしましょうか?」

「…」

一瞬迷ったが、俺はこう告げた。

「交換させて構わない。だが、外に出たら…あのクソガキを2人で捕まえるぞ!」

俺と主任はビルの物陰に隠れ、奴が来るのを待っていた。

毎週、日曜日のお昼頃更新