ゴト師との戦いで証拠を叩きつけると

シリーズ名
現役ホールマネージャーだけど、なんか聞きたいことある? (毎週日曜日更新)
話数
第2回
著者
アタマキタ
つい先日のことだ。その前日はハードな入替作業があったのだが、それをなんとかやりきって帰宅すると朝の8時を過ぎていた。

まぁこれは毎度のことなので、いつものように間髪入れずに着替えを済ませ、5分以内に眠りにつく。この早業が俺の特技だったりするわけだが(笑)、この業界、すぐに寝てすぐさま起きられないと務まらないだろう。


それはさておき、お昼頃だったろうか? 熟睡の気持ち良い最中、会社からの着信で叩き起こされることになる。

基本的にこの時間に会社から連絡が来ることはない。なぜなら入替で朝方まで仕事をしていたことは当然把握しているわけで、最悪寝ている可能性もある。仮に起きていたとしても、出社の準備をする頃合いでバタバタしていると分かっているし、いずれにせよもうすぐ出社するわけだから、よほどのことでもない限り連絡の必要はないのだ。

それだけにこの着信、嫌な予感全開の叫び声にしか聞こえない。一瞬手が止まったが、結局のところ放置などできないので渋々応答したところ、案の定漏れてきたのは主任の焦った声であった。

「朝早くからすみません。至急相談したいことあって電話しました」

何があったと尋ねると、やはり予感は的中していた。

「いまゴト師が2人来て玉を出してます。海物語JAPANです」

"ゴト師"というワードで一瞬で頭がクリアになる。手口は分かっているのか? と尋ねると、主任は順を追って説明を始めた。


まずゴト師Aが来店し、空き台が5台ほど連なっている箇所の真ん中に着席。サンドに札を入れて500円分の玉を借りると、キョロキョロとしきりに周囲を窺っている。しかし着座したまま一向に玉を打ち出そうとはしない。

ここでゴト師Bが来店。ゴト師Aの座っている台の後ろを一度は通り過ぎるが、再び戻って来るとその右隣に着席。しかし席に着いたゴト師Bはサンドに現金を入れる気配はなく、体をかがめて椅子の下あたりを左手で触っている風である。一見すると椅子の高さを調整しているようにも見える。

…と思った直後、ゴト師Aがアクションを起こす。左手で盤面下側のガラス面に手を這わしたかと思ったら、その後、動かしていた手を右下で固定した。これが大体20秒くらい続くわけだが、これでセット完了ということだろう。

かざしていた手を盤面から離すなり何かを右手に持ち替える。そして席に座りながらゴト師Aとゴト師Bが背中合わせの体勢になると、すかさずゴト師Aは右手に持ち替えたものをゴト師Bの左手に手渡す。するとゴト師Bはすぐに立ち上がり、左手を隠しながら店の外にそそくさと出ていった…。


要するにこれは、色々とカムフラージュしながら2人で磁石の受け渡しをしていたのだ。証拠を残さないようにと画策したのだろう。

以前にも触れたことがあっただろうか? これはパチンコ盤面の中で磁石が反応しにくい所を狙い、そこに一手に玉を吸い寄せることで、いわゆる玉がかりを強制的に作り出すゴト行為である。盤面に大量に玉が溜まることはその姿からブドウと呼ばれているのだが、それを利用するゴトということで、これは『ブドウゴト』と呼ばれている。


盤面右側に玉が詰まり始めると右打ちに切り替えて、集中的に玉を積み上げていく。この結果、積み上がった玉で特定のルートが出来上がり、スタートに玉が入りやすくなるというわけだ。そうなると現金投資はほぼなくなるので、後は周囲にバレないように大当たりが出るまでひたすら打ち続ける。

とはいえ、すぐ当たればよいがそこは地道にスタートを回すしかない。そしてそんな状態で打ち続ければバレそうなもんだが、もちろん奴らも対策はしている。

今はどの店にも機種説明のPOPなどが台毎に備え付けられているが、敵はこれを見ているフリをして右側のブドウを隠すのだ。店員の気配を感じるとすかさずPOPをかざし、何もなかったかのように左打ちに切り替える。


今回のケースでは開始10分くらいのところで大当たりを引いたのだが、それと同時にホールコンピューターから異常信号が発報された。ベース異常信号である。

この設定は店によって様々だが、俺の店では『1分間に10個以上のスタート入賞、それが5分以上継続』すると信号が鳴らされる。

そこでまず、バイトがゴト師Aが打つ台の後ろに立った。すぐに盤面のブドウに気付き、これをことごとく崩す。これでブドウは解除されたのだが、確変中ということもありゴト師Aは当然のように打ち続けている。


盤面にブドウができることはないことではないので、当然ながら、ブドウがあるからといってすぐにゴト師と判定するわけではない。しかし、大当たりになっているのにブドウの状態で打ち続けていることは少ない。

普通のお客様なら、大当たり中に盤面がブドウになれば、アタッカーに玉が入らないのではないかと焦ってしまい、台を叩いて自分でブドウを崩そうとしたり店員を呼んだりするものだ。

不審に思ったバイトはこのことを主任に伝えた。そこで主任はモニターの画像を遡って確認し、このゴト行為が発覚したというわけだ。


これだけでも十分だが、ゴト行為が確定的なったのは、とあるセキュリティ会社が公表しているゴト師の写真と奴らが完全に一致したからだ。以前はCR嬢王という機械で磁石ゴトを働いたようである。

そこで冒頭の俺への電話に繋がってくる。俺はまず出玉をすべて取り上げること、そしてセキュリティ会社の発行している写真を本人に見せることでごまかしようがないことを説明しろと指示を出した。そして電話を切るなり車に飛び乗り、俺は店へ向かった。


小一時間ほどで店に着いた俺は、ホールに居た主任からその後の展開についての報告を受ける。

主任はゴト師Aのところに行き、ストレートに「自分のやったことが分かってるよな?」と聞いたらしい。するとゴト師は当然のことながら、「何のことを言ってるか分からないし、いちゃもんつけるなら警察を呼べ!」とうそぶいたらしい。

そこで主任は、以前別の店でゴト行為を働いた時の写真を見せつける。それを見て急に弱気になり、「どうしたら良いんだ?」と観念したということだった。もちろん出玉はすべて没収、確変中だった機械もラムクリアして追い返したという。


そんな成り行きを聞き、とりあえず大きな問題にならずホッとした。…のだが、何だか物足りなさも感じていた。

確かにこれ以上相手を詰めたところで、ゴト師Bの持ち帰った磁石がなければ、警察に連れて行ったところで証拠不十分、または善意の第三者的な扱いで終わってしまうことだろう。そうなると、最悪出玉の没収は無効になってしまうかもしれない。まぁそれは仕方ないとしても、悪さをしたゴト師を野放しにして良いのか…という思いを消せない。

頭では主任の対応が正解だと理解していても、俺はやはり腑に落ちていない。そんな様子の俺を見て、主任はどういう対応がベストだったのか? と聞いてきた。


その時ふとあることを思い出した。以前に俺が関わった同様なケースで、ネタ(ゴト道具)を持っていないゴト師を言葉だけで追いこんだケースがあった。その対応がベストかどうかは分からないのだが、参考になるかと思い俺は主任に話を始めた。
(つづく)